77 時期の問題か、所在の問題か?
《クロノ・ブルーム計画》
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍 第9話
惑星リリナスの軌道を静かに滑る研究艇《エアルト号》の展望デッキで、ハニス・イザルは銀河中心を貫く青白い輻射キューブの照射軸を見つめていた。
その亜空間コミュニュでハニスは声を発する。ヴォー・ユニットを通して惑星ネオ・エーテル側にいるQ型ロボットのミーター・エコーが軽く姿勢を正して返答する。
「ミーター君。リリナスでは、オルデン・プルプラの時代が終わろうとしている。では──アポリアナはあの頃いったい何に心を囚われていたのだろう?
銀河復興の“時期”なのか、それとも故郷星の“所在”なのか?」
ミーター・エコーは柔らかく瞬きし、答えた。
「ハニスさん、急ですね。推論はハニスさんの領分でしょう? 僕はただアポリアナの近くにいただけです。でも──知っていることなら全部お話しします。」
「すまん。」
ハニスは照射軸を見据えたまま小さく息を吐いた。
「近頃はアポリアナの心を自分の中で反芻しすぎてね。君に訊いて確かめたくなった。」
そして核心に踏み込む。
「まず“時期”だ。ヒュー・ドナックが《クロノ・ブルーム計画》に施した最終修正を、ラムダ・グリスは心から喜び、受け入れたという。なぜそこまで確信できたのか……ずっと考えている。」
「その洞察は、アポリアナと同じです。」
ミーターはゆるやかに頷いた。
「答えは、ラムダが亡くなる数週間前に届いた、ヒュー・ドナックの《人類故郷星調査報告書》にあります。届けたのはシャウ・リーガルでした。」
「その報告書を読んだラムダは、すべてを理解した上で、後事をコンシューアムと惑星ネオ・エーテルに託す決断をしたのです。」
ハニスは静かに息を呑んだ。
「故郷星の名は惑星シンパシオン。別資料では惑星オルビタルとされている……そうだったな。」
「はい。」
ミーターは続けた。
「そして報告書の核心は《人類歴史一般仮説》。ヒュー・ドナックのクロノ・フラワー理論──文明は約五百年周期で交替するという、時間の花の法則です。」
銀河の闇が、その言葉を静かに抱き締めるように沈黙した。
「次は“所在”です。」
ミーターは青白い照射線を指す。
「アポリアナは、銀河中心(=惑星リリナス)から大ブラックホールを跳躍する照射軸を導き、その“反対側の端”を惑星ネオ・エーテルと定めました。」
「しかし──ここからが謎の核心ですよ、ハニスさん。」
「聞こう。」
「“反対側”とは本質的に“円に終わりはない”という公理を破りません。つまり、真の第二拠点──コンシューアムは、幾何学的対称性としてはリリナスと密接な連続性を持つはずです。」
ハニスは、思索の底で何かが確かに噛み合う音を聞いたように、ゆっくりと頷いた。
「だがネオ・エーテルの偏向により、コンシューアムはすでに別の星に移動している……そう考えるのが合理的か。」
「はい。そしてさらに続きがあります。」
ミーターの瞳に、照射線の光が細い軌跡となって映り込む。
「今度は、惑星ネオ・エーテルを“始点”として照射してみる。
その線こそ、アポリアナが最後まで追い求めた“所在の真実”に至る鍵なのです。」
ハニスの先に浮かぶ輻射キューブの青い線が、銀河の闇の海に一本の未来軸を描いていた。
その先にあるもの──二人はまだ知らない。
つづく。
ハッシュタグ
ミーター・エコー
ハニス・イザル
シャウ・リーガル
オルデン・プルプラ
ヒュー・ドナック
惑星シンパシオン
惑星オルビタル
惑星ネオ・エーテル(≦アーカイヴ)
コンシューアム
アポリアナ
惑星リリナス
クロノ・フラワー



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