エピソード 54 スペースポートでの邂逅

アルカディア・ダレル

スペースポートでの邂逅
ファウンデーションの夢
第七部 アルカディア・ダレル
第8話 スペースポートでの邂逅
エピソード 54
アルカディア・ダレルは急いでスペースポートの広大なロビーを横切っていた。スカイスクーターのように動き回る人々の間をすり抜け、振り向くことなく先を目指す。その手に握られた切符をきっかけに、彼女の足元に落ちた何かに気づいた。
「お嬢さん、そんなに急いで、どこへ行かれるのですか?」
声をかけてきたのは、中年の男で、無精髭が顔を覆い、どこか気だるげな様子だった。その手にはアルカディアが落とした切符が握られている。彼はにっこりと笑いながらそれを差し出した。
「手を放してください。急いでいるんですから。」
アルカディアは、慌ててその男から切符を取り戻し、振り返ることなく歩き出した。
「そう焦ることもないだろう?」
男は一歩近づき、からかうように言った。「ほら、お嬢さんの切符ですよ。落としたのを見かけましたからね。トランター行きですか、普通、ですか?」
アルカディアは目を細めてその男を見た。なんとなく気になる一言だったが、急いでいるため、気にする暇もなかった。
「そうです。ですが、あなたは誰ですか?」
男は笑みを浮かべながら、軽く頭を下げた。「私はプリーム・パルヴァー。トランターの農業協同組合の会長だ。こちらは家内です。」
彼はふっと息をつくと続けた。「ちょうど、会談が延期になってね。戦争が始まりそうで、急遽戻ることになったんだ。」
「戦争?まさか、ファウンデーションと?」
アルカディアは目を見開いた。突然の言葉に、心が一瞬乱れた。
「お嬢さん、あなたはターミナスの人間ですか?」
パルヴァーの目がほんの少し鋭くなった。
「はい、私はアルカディア・ダレル。惑星ターミナスの者です。」
アルカディアは思わず名を名乗りながら、心の中で驚きと疑念が渦巻いた。もしあのホマー叔父さんが本当に言われていた通り、あの“マン”という人物と同一人物なら、それは決して単なる偶然では済まされない。
「そういえば、マンとかいう名の大使に会ったことがあります。」
パルヴァーは淡々と続けた。「滑舌が良く、背筋がピンと伸びている男で、まるで無敵のようだった。」
アルカディアの心臓が早鐘のように鳴り始めた。
「あのだらしない、吃り癖の、いつも自信なさげな . . . それが、マン?本当に?」
彼女の目に驚きが浮かんだ。それは、全てが繋がった瞬間だった。やっぱり、あのホマー叔父さんが . . . 。だが、すぐに思い直す。
「いや、でもおかしい。どうして . . . ?」
その時、背後から警官の声が響いた。
「若い女性を探している。宮殿から逃げ出した者だ。身分証明書を見せてくれ。」
アルカディアは瞬時に振り返り、顔色を変えた。警察が自分を探しているとは、まったく思いもしなかった。
パルヴァーはその瞬間、身を乗り出して警官に言った。「これには及ばない。こちらの子は私の孫、アルカディア・パルヴァーだ。」
そして、警官の目をしっかりと見据えた。
警官は一瞬疑念を抱いたが、何も言わずに頷いた。「わかったら、他を探すとしよう。」
そして、警官はそそくさと去って行った。
アルカディアは息を呑んでその場に立ち尽くしていた。パルヴァーがどうしてあんな嘘をついて警官を納得させたのか、その理由が全く分からなかった。しかし、命拾いしたのは間違いなかった。
「助かりました、パルヴァーさん。でも、どうやって警官を納得させたんですか?私の身分証明書には『アルカディア・ダレル』って書いてあるのに . . . 」
アルカディアは不安げに尋ねた。
パルヴァーはにやりと笑って言った。「そうだな、どうやってやったかは秘密だ。だが、この街では、ちょっとした偽名が役に立つことがあるのさ。」
アルカディアはその言葉に、さらなる疑念を覚えつつも、急いでスペースポートの出口へと足を進めた。次に待ち受けている冒険が一体何なのか、全く予想がつかなかった。
次話に続く . . .

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