パークサイド

フォウンデーションの夢

ファウンデーションの夢
第三部 ウォンダとガールの地球探訪

第9話
パークサイド(銀河暦12067年、惑星ターミナス、モーヴ市郊外)

銀河暦12066年——銀河帝国は未だ広大な支配を誇っていたが、その内部では崩壊の兆しが静かに広がりつつあった。そんな折、ロボット・ダニール・オリヴォーはひそかにある決意を固めていた。ハリ・セルダンの「心理歴史学」、そして二つのファウンデーションを支えるため、人類の最古の故郷——地球の探索へと旅立つのである。

長きにわたる調査の末、ついにダニールは、天の川銀河の半球を過ぎた先で、それらしき海洋惑星を発見した。彼は慎重にその地を探り、やがて確信を得る。この星こそ、失われた歴史の源、かつての人類の揺り籠であると——。

しかし、彼にはもう一つの使命があった。シンナックスの若き数学者ガール・ドーニックを、トランターへと導くこと。彼こそが、心理歴史学の礎となる存在なのだから。ダニールは「ヒューミン」という偽名を用い、シンナックス大学へと潜入する。そして何気ない顔で、ガールが自らの運命に気づくのを待った。

意外にも、その時はすぐに訪れた。ガールは、まるで何かに突き動かされるかのように、自らが見いだした数々の仮説を、初対面のヒューミンへと熱く語り始めた。その非凡な直観と閃きに、ダニールはロボットでありながら言葉を失う。

——彼は正しかった。ガール・ドーニックこそ、心理歴史学の未来を担う者なのだ。

裁判、そして新たな叙事詩の始まり

ダニールの支援のもと、ガールは多額のクレジットを受け取り、トランターへと向かった。だが、彼がハリ・セルダンと接触するや否や、二人はすぐさま逮捕された。セルダンの予測する「帝国の崩壊」を危険視した帝国政府は、彼らを法廷へと引きずり出そうとしていたのだ。

トランターの牢獄で、ガールはセルダンの側近であるロース・アヴァキャムと対面する。彼は、ハリ・セルダンが心理歴史学を確立するまでの経緯、そして帝国の未来について語った。

「帝国は、500年以内に崩壊する。」

92.5%の確率で。

やがてガールは釈放され、ハリ・セルダンから心理歴史学の全貌と、ファウンデーション計画の詳細を明かされる。さらに、彼にはもう一つの任務があった。モーヴ建設——ファウンデーションの拠点としてのターミナスを整備すること。その要として、百科辞書編纂のための巨大な図書館を築くのだ。

しかし、その時だった。セルダンが宰相デマーゼルの秘密に触れようとした瞬間、背後から静かに現れた影があった。

ヒューミン(=ロボット・ダニール・オリヴォー、元宰相エトー・デマーゼル)。

彼は微笑しながら、しかし有無を言わせぬ口調で、セルダンの言葉を制した。

「それは、今語るべきではない。」

そして物語は、半世紀前へと遡る。

地球への旅路

ハリ・セルダンが心理歴史学を確立する以前、彼は意図せずトランター中を逃げ回ることとなった。その逃避行の果てに彼は気づいた。何者かが、自分を導いている。

その影は、宰相デマーゼルであり、ダニール・オリヴォーであり、そして——ドース・ヴェナビリすらも、その手によるものだったのだ。

話は再び現在へと戻る。

ガール・ドーニックは久しぶりのヒューミンとの再会に喜ぶも、その直後、突然強烈な眠気に襲われた。そして気づけば、彼は見知らぬ航宙船の中にいた。目の前に立つのは、どこか親しげな笑みを浮かべた、容姿端麗な女性——ウォンダ。

彼女は、かつてハリ・セルダンの理論を補佐した天才的な数学者。今、ガールと共に、荒廃した地球の大地を踏みしめていた。

地球は静かだった。大気は薄く、乾燥しきっている。しかし、彼の目に映ったのは——泉の水を汲み、無邪気に遊ぶウォンダの姿だった。

「この水を . . . 」

ウォンダは、地面の裂け目から湧き出す水を三つのシリンダーに分けた。透明、紫、黄色の液体が、それぞれのシリンダーに収められる。

「この紫のシリンダーを、ターミナスにいる私の妹、ベリスに渡してほしい。」

ガールは静かに頷いた。

それは、人類再生のための聖なる水だったのかもしれない。

ターミナスの黄昏

ガールは、心理歴史学の運命を背負いながら、やがてファウンデーションの中心都市モーヴへと戻った。

セルダンの余命は、あと二年。

ターミナスでは、百科辞書編纂を目的とした壮大な図書館の建設が進んでいた。ガールは公園を歩きながら、完成したばかりの議事堂と行政機関を眺める。彼の使命は、まだ終わらない。

しかし、その時——。

虹がかかった。

公園の奥、谷間の泉のほとり。そこに、一人の少女が立っていた。

ウォンダ . . . ?

ガールは息を呑んだ。少女は、どこか遠くを見つめるように、物思いに耽っている。かすかな憂いを湛えた瞳。そして、紫のラヴェンダーが咲き乱れる泉のそばに、静かに立っていた。

ガールの脳裏に、かつてウォンダが小さな島でクローバーを摘んでいた光景がよぎる。しかし——。

次の瞬間。

少女の姿は、消えていた。

——そして物語は、新たな歴史へと繋がる。

イメージmusic:Park Side Romance
by Kiyotaka Sugiyama

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