第18話 ベリス・セルダン
SF小説 ボー・アルーリン
Place:惑星コンポレロン、ヴェルナス市
Date:銀河暦 12058年
ボー・アルーリンは惑星コンポレロンのニュートーキョウ空港から、長い旅を終えてサンタンニのヴェルナス宇宙空港に降り立った。ベントレー・ランビットに見送られてから、すでに一か月半が経過していた。
空港を出ると、ボーは目の前に広がる自然の豊かさに驚きを覚えた。緑が生い茂り、澄んだ空気が心地よい。長い旅の疲れを癒すように、彼は深く息を吸い込んだ。ゼンフォラ市の広々とした景観と穏やかな気候に、彼の緊張も徐々にほぐれていく。
ボーは上着のポケットからゼンフォラ市の略図と眼鏡を取り出し、目的地である「アーロンティア地区」を確認した。そのとき、背後からしっかりとした女性の声が響いた。
「ボー・アルーリン教授ですね。惑星コンポレロンのニュートーキョウ大学の?」
振り返ると、四十代ほどの女性が幼い少女の手を握って立っていた。少女は利発そうな様子で、年齢は五歳ほどに見える。
「はい、私がボー・アルーリンです。」ボーは少し照れくさそうに頭に手をやった。これが彼の癖だった。
女性はにっこりと微笑み、自己紹介を続けた。「主人に頼まれて、お迎えに参りました。セルダン家を代表して、あなたを歓迎します。私はマネルラ・セルダン、ハリ・セルダンの息子レイチ・セルダンの妻です。」
彼女の手を握っていた娘は、その手を離して両手で口を押さえ、笑いをこらえていた。「この子は私たちの次女、ベリスです。」
「ご親切にありがとうございます。恒星間旅行は初めてで、正直とても緊張していました。空港からはタクシーでご自宅に向かうつもりでしたので、お迎えいただき大変助かります。」
マネルラは微笑みながら言った。「アルーリン博士、この子ったら空港に来たのは、あなたが姉のウォンダを連れてくると信じていたからなんです。『ウォンダは来ませんよ』と何度も言い聞かせたのですが、どうしても納得しなくて。」
ボーはベリスに微笑みかけ、彼女の純粋な期待に心が温かくなるのを感じた。しかし、レイチが来られなかった理由が気になった。
「レイチは今、ダール人居住地区の移民問題で政府との調整役を務めていて、役所に詰めきりなんです。ここ数日、自宅にも戻れていません。お会いできず残念ですが、今はとても忙しい状況です。」
ボーは頷き、少し残念に思いながらも、セルダン家の温かさに胸が熱くなった。
「お会いできないのは残念ですが、レイチ・セルダンがそのような重要な任務に就いていることを知り、誇りに思います。彼がダール人たちのために尽力しているのですね。」
「ええ、そうです。私たちはサンタンニで、新天地を求めてダール人たちと共に暮らしています。それに、私たちの養子であるダール人の男の子も家族の一員です。」
ボーはマネルラの言葉に、彼女とレイチがダール人たちと共に新しい未来を築こうとしていることを強く感じた。家族の絆とサンタンニでの新たな挑戦が、彼の心に深く刻まれた。
次話につづく . . .
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