涙の黒い太陽
第103話涙の黒い太陽
第103話 涙の黒い太陽
SF小説 ボー・アルーリン
ジョン・ナックが記した歴史思想書の最後の章が、再び銀河系で語られる時が訪れようとしていた。その結論はこうだった—科学の進歩が人類の想像力を超えたとき、破滅の影が忍び寄る。
かつて、原子力がもたらした惨劇がそうであったように。
ナックが描いた「ニフ人」とは、核戦争の傷を知りながらも立ち直ろうとした唯一の民を指していた。彼らは、暗黒の時代を経て未来を築こうとした者たちだった。
その夜、ベリスは静かな夢の中で祖母ドースの姿を見た。
月光の下、彼女は庭の小道に立ち、柔らかな微笑みを浮かべていた。
「図書館でジョン・ナックの本を読みなさい。そして、例の公園へ行きなさい。髪には、庭で咲いているジンジャーの花を挿してね。」
祖母の声は風に溶けるように消え、ベリスは目を覚ました。
彼女は迷わなかった。
翌朝、図書館へ向かい、ジョン・ナックの書を手に取る。
ページをめくるたび、彼の思想が心の奥に深く刻まれていく。
「 . . . ニフ人は、宇宙に逃れる前、黒く覆われた空の下で四十日間、太陽を見ることができなかった . . . 。」
言葉が鋭い光のように突き刺さる。
本を閉じた瞬間、ベリスは祖母の言葉を思い出し、先日ベントレーが届けてくれたジンジャーの花を庭でを摘んだ。それを髪に挿し、静かに公園へ向かった。
沈黙の記念碑
そこには、昨日までなかったものがあった。
土に半分埋まった黒い丸い像。
それは、光を吸い込むかのように闇に沈んでいた。
ベリスは不思議な気持ちで像に近づき、そっと手をかざした—その瞬間、
黒い表面が黄金に輝き、未知の文字が浮かび上がる。
『我らはニフ人、シンナックスを経由してここ銀河の果てへと流れ着いた。
ここに「涙の黒い太陽」の像を埋める。
放射能の悲惨さを忘れぬために。
我らがニフを飛び出したのは、空が放射能で黒く覆われ、光を遮られ、四十日の間太陽を見なかったからだ。
この像は、その教訓の証である。ここに記念としてラヴェンダーの種を撒いていく。
宇宙が蘇る、その礎を築く時が来る。
そして、一人のシンナックスの青年が、その意味を理解するであろう。』
「 . . . その青年とは誰 . . .?」
ベリスは像を見つめながら呟いた。
その時、空から萌葱色の霧雨が静かに降り始めた。
公園は霞に包まれ、泉のせせらぎと小鳥のさえずりが幻想的に響く。
やがて、七色の虹が夜空にかかる。
その美しさに息をのむベリスの耳に、ふと微かな声が届いた。
「姉さん、ウォンダは今頃どうしているのかな . . . 。」
はっとして振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。
けれど確かに、誰かが彼女を見ていた。
この出来事は偶然ではない。
ベリスの直感が警鐘を鳴らしていた。
この像、刻まれた言葉、そしてニフ人の歴史——
これらが、銀河の未来に何をもたらすのか。
その鍵は、まだ見えない誰かの手に握られている。
次話につづく . . .
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