第91話 入植と開拓
SF小説 ボー・アルーリン
第91話 入植と開拓
カーリスは、乾いた風に髪を揺らしながら荒野を見渡した。どこまでも続く赤褐色の大地、遠くに連なる低い丘。そして、その中心に立つ自分たち。彼女は思わず笑みを浮かべた。
「先生、この荒野は見渡す限り清々しいですね!」
彼は隣に立つボーに語りかけた。
「ここに町を造られるのですね。惑星ターミナスの首都ですね。」
ボーは静かに頷き、遠くの地平線を見つめた。その瞳には、この荒れ果てた大地が未来の繁栄した都市へと変貌する光景が映っているかのようだった。
「サリプから一緒にきたダール人も、『この大事業の先発隊になれる』と誇りに思っているようです。」カーリスの声には誇りが滲んでいた。「みんな意気込んでいます。」
ボーは彼に目を向け、柔らかく微笑んだ。
「それは大変頼もしいよ、カーリス。今まで彼らを導いてきたキミのお手柄だね。だが、これからが本番だよ。引き続き頼むね。」
彼は腕を組み、思案するように視線を巡らせた。
「ところで、キミのところのダール人と惑星サリプからのボランティアで総勢何人になる?」
カーリスはデータパッドを確認しながら答えた。
「ダール人が約二千、サリプのボランティアが三千人。あわせて五千人ですね。もちろん、それとは別に科学者とその家族が合計十万人います。」
ボーは深く頷いた。
「そうか。惑星ターミナスの開拓は、50人委員会が政治と行政を担い、科学者1000人が心理歴史学やエネルギー、生態学などを研究し、家族10万人が技術者や労働者として社会を維持する。最初の3年は仮設都市を建設し、行政・研究施設、住宅、農業区を整備。食料は輸入に頼りつつ、水資源やエネルギー(原子力・太陽光)を確保する。そして5年後には恒久都市へ移行し、農業・工業を確立。教育・医療を充実させ、自給自足を達成する。10年後には交易を開始し、知識経済を基盤とした独立した経済圏を形成する。防衛は当初非武装だが、中期以降は科学技術を活用した戦略を導入する。」
彼は一息つき、続けた。
「しかし、この計画の成否は、ここにいる皆の努力にかかっている。」
カーリスは誇らしげに胸を張った。「任せてください!」
だが、彼の顔にふと影がよぎる。
「ですが先生、ホルクの姿が見当たりませんね . . . 。」
ボーの表情がわずかに曇った。
「ホルクはもう一つの重要な任務で来られないのだよ。」
その言葉を受け、そばに立っていたイリーナが、優雅な仕草で髪をかき上げながら微笑んだ。
「こんな素晴らしい光景を見せてくれてありがとう、カーリスさん。」しかし、彼女はすぐにボーの表情を見て、首を傾げた。「でもボー、浮かない顔ね?」
ボーは少しの間、沈黙した後、ぽつりと呟いた。
「今、ダニールのことを考えていた。今頃、彼はついに地球に到達した頃だと思う。」
「でもなぜ、そんなに浮かない顔を?」イリーナが優しく尋ねる。
「カリブ・ゼロ(ゾロニス)の本棚にあった一冊に、地球の現状について書かれていた。放射能で爛れた地表、焼けただれた過去の遺跡 . . . 。」
ボーの目には、今まさに新たな未来を築こうとするターミナスの荒野と、滅びの象徴である地球の荒廃した大地が重なって映っていた。
「そうね . . . こっちは天国。そして、人類の故郷、地球は地獄。皮肉で残酷な現実ね。」イリーナは、冷たい風を浴びながら呟いた。
遠くで、ダール人の入植者たちが声を上げていた。彼らの未来には、希望が満ちていた。
次話につづく…
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