第87話レオナルドの洞察
第87話 レオナルドの洞察
SF小説 ボー・アルーリン
「ボー先生、イリーナ様。解析結果が出ました。」
プロキュラスのスピーカーから響くアーキヴォーの声は冷静そのものだった。
「レオナルドが銀河データネットワークを利用し、膨大な情報を収集していることが判明しました。その中には、地球時代のアーカイブや、ラブロックが提唱した『ガイア仮説』に関する詳細なデータも含まれています。」
イリーナは眉をひそめた。「ラブロックのガイア仮説?古代地球の科学思想が今さら何の関係があるの?」
ボーは目を細めた。「それが、レオナルドが伝えたかった重要な鍵かもしれない。続けてくれ、アーキヴォー。」
「はい。レオナルドは、ヘリコンの水耕栽培技術がガイア仮説の影響を受けて発展した可能性を示唆しています。ガイア仮説は、地球そのものを一つの生命体とみなす視点を提唱し、生態系の相互作用と循環を重視しました。この思想が、ヘリコン移住者の哲学に影響を与え、惑星規模での農業モデルに取り入れられたと考えられます。」
イリーナは深く息をついた。「つまり、ヘリコンの水耕栽培は単なる技術じゃなくて、思想の延長線上にあるものだと?」
「その通りです。」アーキヴォーの声には微かな誇りが宿っていた。「レオナルドは、『ガイア思想が銀河系の様々な文化にどのような形で受け継がれてきたか』を研究し、それを基にヘリコンの現状を説明しています。」
ボーは静かに頷いた。「ガイア思想の遺産が、ヘリコンを特別な惑星にしているのかもしれないな。」
「さらに興味深いことに、レオナルドはこう結論づけています。」アーキヴォーの声が少し低くなる。「ガイア仮説の哲学的基盤が、将来的に『ガイア』という新たな存在を生む可能性がある、と。」
イリーナはボーを見つめた。「まさか、ガイアっていうのが本当に存在するって言いたいの?」
ボーは肩をすくめた。「それはまだわからない。ただ、レオナルドの推測を無視するのは危険だろう。この銀河系におけるすべての出来事が、何らかの形でつながっている可能性がある。」
アーキヴォーが最後の報告を続けた。「レオナルドは、ダニール様がガイア仮説を基にさらなる未来像を描き出そうとしていると示唆しています。その未来像は、単なる銀河系の再生ではなく、宇宙全体を一つの生命体として調和させるものです。」
イリーナは小さく息をのんだ。「そんな未来が本当に可能なのかしら?」
「可能かどうかはわからない。ただ、それを探求するのが私たちの役目だ。」ボーの声は力強かった。「レオナルドの洞察は、私たちに新たな視点を与えてくれた。これを無駄にするわけにはいかない。」
イリーナは微笑んだ。「じゃあ、次はどこから始める?」
「まずは、レオナルドのデータをさらに精査する。そして、ダニールが何を目指しているのか、その全貌を明らかにする必要がある。」
アーキヴォーの声が最後に響いた。「準備は整っています。次のステップに進む準備ができました。」
「いいだろう。」ボーは深く息を吸い込んだ。「未来を切り開く時が来た。」
次話につづく . . .
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