ダニールのアポリア(行き詰まり)

2万年後の銀河

ミーターの大冒険 余白 第16話 ダニールのアポリア(行き詰まり)

ハニス 不死様も人間同様に、いやダニール・オリヴォー(長期間人間との交流の結果)だからかも知れないが、自身の機能の部分的ネクローシスは代替え部品によって容易に復旧するわけだが、肝心の陽電子頭脳の芯、いわば陽電子が最終崩壊すると完全なアポトーシスに至る、と言ったところだ。

ヴァレリー そのロボットであっても、宇宙の原理から逃れることはできない、というのですね。
 最近、相次いで再発見された、古代地球の哲学者プラトンの「アポリア」(行き詰まり)の命題ですね。

 聞いてますよ、ダニール・オリヴォーは2万年に亘る宇宙潮流との対峙、あるときはそれに沿って流され、あるときはその逆流に翻弄されて来られたそのご苦労を。

ハニス むむ、知っているというのですかな、哲女殿?

ヴァレリー 知っていると言っても、その歴史的枠組みだけですよ。その核心的なことではなく。

ハニス はあ、いいからその歴史的枠組みからでも話してみたまえ。俺のアポリアが少しでもほぐれるかも知れないからね。

ヴァレリー はい、お言葉であれば、

 まず、ざっと今から12600年前、急激にそれ以前、5つの惑星であったものが連邦制度的に移行してトランター共和国を形成しました。そして時を経ずして、帝国に移行しました。

 その過程でダニールは一大決断を実行しました。

ハニス なんであったのかな?

ヴァレリー はい、不死様は、その過程を強めるため、人類歴史消滅を断行しました。同時に地球放射能駆除の方針を取り止めました。詳しい事情は今だかつて不明です。

ハニス フムフム。

ヴァレリー 銀河暦500年頃、銀河全域の既入植惑星にロボットのテラフォーメーション完了の合図のように、身代わりの天使の像が出現しました。

ハニス その確実な根拠はあるのですかな、歴女殿?

ヴァレリー これは、当時毎日のように銀河全域に駆け巡ったニュースなのですが、その確実な証拠というのは、各メディアや各惑星、最終的には帝国広報でそういうことにした、としか記録はございません。

ハニス 続けたまえ。

ヴァレリー 銀河暦2000年頃、偉大なるルリエスが現れ、温情的な統治の原理を提唱し、「混沌」にも動揺することのない安定的社会を実現しました。

ハニス それは正確ではない。もっと丁寧に言うなら、「実現したに見えた」だよ。

ヴァレリー おっしゃる通りです。
 確かに、ダニールは、「混沌」を制御し得たように見えました。

 銀河暦8789年には、惑星リンゲインの文芸復興は8年で潰えましたね。
 その後、銀河暦12028年惑星サークの文芸復興も不成功に終わりました。
 さらに、12040年にも同様に惑星マッダー・ロスの文芸復興も破綻しました。おまけにこの時の悲惨さは、銀河全域に及んだと言われております。
 そしてやがてハリ・セルダンにとっても心痛極まりない惑星サンタンニで息子のライチを失ってしまわれたのですね。
 それが起こったのは、銀河暦12058年でした。
 その年に精神感応者のステッティン・パルヴァーがウォンダ・セルダンの仲間になったのですね。

 その惑星サンタンニの失敗を根本から考え直すため、ダニールは真実の解決を求めて、自身の寿命を感じながらも、自身が引き起こした未解決のアポリアにもう一度、最終的に向き合った、のですね。

ハニス お見事!合格点をあげたいところだが、ちょっとだけ気がかりなことがあるんだよ。

ヴァレリー 「ちょっとだけ気がかり」ですか?

ハニス そう、きみの述べた、取っ掛かりの「銀河暦2000年頃、偉大なるルリエスが現れ、温情的な統治の原理に沿った安定的社会」を提言する前準備としてダニールは、辺境の惑星イオスに「ロボットの製造及び修理工場」を建設したんだ。そのことと何か関係があるという疑念をもっているのだよ。

ヴァレリー ハニスさんは、そのダニールの方向性そのものに、この銀河に「混沌」を呼び込んでしまう何かしらの正体があるのではないかと勘繰っておられるのですね?

ハニス さよう。だがまだよくわからない。その因果関係が当たっているのかどうかを、ずっと思案し続けて来たのだ。

ヴァレリー ハニスさんは、まさにこの銀河で、あのプラトンを越える偉大なるルリエス、どころか、ひょっとして偉大なる哲学者であるかもしれませんね!

ハニス まさか、いい加減にしてくれないか。おだてても何も出ないよ!

To be continued …

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