95. 「我らは銀河の子」

イルミナ
  1. 「我らは銀河の子」

ミーターの大冒険
第二部
イルミナ
第5話

我らは銀河の子

惑星シナプス上空。
ナディール号は、青白い極光の帯を静かに見下ろしていた。

艦内観測室に立つミーターの光学素子が、わずかに明滅する。
その内部では、反クォンタム神経回路が過去の映像を再構成していた。

「……音痴って、この世の中に実在するのね。」

天井スピーカーから、イルミナの声が滑り落ちた。
柔らかく、しかし明らかにからかいを含んでいる。

「アンソア・シグマさんの歌「我らは銀河の子」は、聴けたものじゃないわ。ミーターさん、また“鍵”を開けているのでしょう?」

ミーターはゆっくりと振り向く。

「イルミナ、控えろ。アポリアナは――目を閉じて聴いている。」

彼の内部記憶層には、ラヴェンダー畑の香りと夜風が蘇っていた。
ペリゴール家の館。
五十年待たれた再会の夜。

イルミナは即座に応答する。

「私は“心理スキャン備え付け最新鋭イルミネーショナー”。あなたの白昼夢など、演算誤差以下よ。」

わずかな間。

「でも本当に、アンソア・シグマさんは音痴だわ。」

その瞬間、観測窓の外に広がる惑星シナプスの星空が強く輝いた。
オーロラの光帯と、横たわる銀河中心腕が交差する。

イルミナの声が少しだけ真面目になる。

「強いて褒めるなら、いま見えているこの天空かしら。
銀河一かもしれないわ。ずっと観ていたい。」

「僕の追憶は、ここじゃない。」

ミーターの声は低い。

「惑星ネオ・エーテルの館の夜だ。
その歌詞、スキャン・アップできるか?」

数秒後、艦内に音声データが投影された。

それは、プライマリー・スクールで歌われる古い歌だった。

「冷たい銀河の風。
高邁な理想。
グリスの名。
ボロなスペースワゴン。

優しい銀河の風。
銀河の塵でできた命。
ヒュー・ドナックから教わった織姫と彦星。

熱い銀河の風。
復興。
紫(モーブ)に染まる宇宙。

美しい銀河の風。
オルフェウス。
Rであってもグリスを助ける者」

歌が終わる。

静寂。

ミーターの内部で、ある単語が強く反響していた。

――音痴。
――交差。

極光と銀河。
記憶と現在。
アポリアナと未来。

「……交差、か。」

その瞬間、彼の反クォンタム頭脳に、まだ言語化されていない仮説が芽生えていた。

惑星シナプスの極光は、まるで銀河そのものが応答しているかのように揺れていた。

彼らは銀河の子。

だが――
銀河もまた、彼らを試しているのかもしれなかった。

つづく . . .

○思想フレーズ

「我らは支配者ではない。試される存在である。」

前話(第94話)の内容

ミーターはナディール号と自身の再生を経て、白昼夢で過去のアポリアナの記憶と再会する。
記憶は単なる感傷ではなく、銀河横断のための座標となる。

次話予告(96話)

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