- 「我らは銀河の子」
ミーターの大冒険
第二部
イルミナ
第5話
我らは銀河の子
惑星シナプス上空。
ナディール号は、青白い極光の帯を静かに見下ろしていた。
艦内観測室に立つミーターの光学素子が、わずかに明滅する。
その内部では、反クォンタム神経回路が過去の映像を再構成していた。
「……音痴って、この世の中に実在するのね。」
天井スピーカーから、イルミナの声が滑り落ちた。
柔らかく、しかし明らかにからかいを含んでいる。
「アンソア・シグマさんの歌「我らは銀河の子」は、聴けたものじゃないわ。ミーターさん、また“鍵”を開けているのでしょう?」
ミーターはゆっくりと振り向く。
「イルミナ、控えろ。アポリアナは――目を閉じて聴いている。」
彼の内部記憶層には、ラヴェンダー畑の香りと夜風が蘇っていた。
ペリゴール家の館。
五十年待たれた再会の夜。
イルミナは即座に応答する。
「私は“心理スキャン備え付け最新鋭イルミネーショナー”。あなたの白昼夢など、演算誤差以下よ。」
わずかな間。
「でも本当に、アンソア・シグマさんは音痴だわ。」
その瞬間、観測窓の外に広がる惑星シナプスの星空が強く輝いた。
オーロラの光帯と、横たわる銀河中心腕が交差する。
イルミナの声が少しだけ真面目になる。
「強いて褒めるなら、いま見えているこの天空かしら。
銀河一かもしれないわ。ずっと観ていたい。」
「僕の追憶は、ここじゃない。」
ミーターの声は低い。
「惑星ネオ・エーテルの館の夜だ。
その歌詞、スキャン・アップできるか?」
数秒後、艦内に音声データが投影された。
それは、プライマリー・スクールで歌われる古い歌だった。
「冷たい銀河の風。
高邁な理想。
グリスの名。
ボロなスペースワゴン。
優しい銀河の風。
銀河の塵でできた命。
ヒュー・ドナックから教わった織姫と彦星。
熱い銀河の風。
復興。
紫(モーブ)に染まる宇宙。
美しい銀河の風。
オルフェウス。
Rであってもグリスを助ける者」
歌が終わる。
静寂。
ミーターの内部で、ある単語が強く反響していた。
――音痴。
――交差。
極光と銀河。
記憶と現在。
アポリアナと未来。
「……交差、か。」
その瞬間、彼の反クォンタム頭脳に、まだ言語化されていない仮説が芽生えていた。
惑星シナプスの極光は、まるで銀河そのものが応答しているかのように揺れていた。
彼らは銀河の子。
だが――
銀河もまた、彼らを試しているのかもしれなかった。
つづく . . .
○思想フレーズ
「我らは支配者ではない。試される存在である。」
前話(第94話)の内容
ミーターはナディール号と自身の再生を経て、白昼夢で過去のアポリアナの記憶と再会する。
記憶は単なる感傷ではなく、銀河横断のための座標となる。
次話予告(96話)



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