1. 探索のはじまり

ノヴェル・ミライの地球探索

第1章 探索のはじまり

二万年後の銀河シリーズ
第1弾
『アーカイヴの舟』
第一部 ノヴェル・ミライの惑星エアルト探索

ノヴェル・ミライの決意

「移動をやめた文明は、魂から先に滅びる。」

銀河連邦を統べた者が、たった一つの星を探している。二万年前に見た、ある海の記憶を手がかりに。人類の歴史を消し続けた反クォンタム頭脳の存在が、人間との親交によって「壊れて」いく。壊れたことで初めて始まった、記憶と人類存続をめぐる壮大な旅。

静寂の中、ノヴェル・ミライは微睡(まどろ)んでいた。
反クォンタム頭脳を持つ存在である彼に眠りは不要だったが、長い時を経て人間と共に歩み続けたその意識には、ときおり過去の記憶が波のように押し寄せることがあった。
《人類は移動することによって進歩してきた。
移動を止めれば、生の向上も止まる。
異なる習慣を持つ者は敵ではなく、むしろ貴重な存在なのだ。》
古代惑星エアルトの哲学者、ノース・ホワイトヘッドの言葉が、ノヴェルの反クォンタム頭脳をよぎる。その思想は、盟友カルヴィン・アーキヴィオの遺志を継いだ自分の使命を、静かに、しかし確かに照らし出していた。
今、銀河連邦最高指揮者という立場を離れ、ノヴェル・ミライは新たな決意を胸に抱いていた。
時は流れ、ラムダ・グリスもまた老いつつある。
かつて惑星エアルトで出会ったエリオール・リャンを思わせるその人物も、遠からず歴史の舞台から姿を消すだろう。彼の世話はドーラ・ウェーブが引き受けることになっている。惑星イオスで再生された彼女ならば、ラムダを最後まで支え続けるはずだ。
ノヴェルは、さらに遠い記憶へと意識を沈める。
二万年前、惑星エアルトで見た最後の海の光景。
あの時の潮騒、夕焼けに染まる波、そして隣に立っていたエリオール・リャンの姿――。
あの交流が、彼の内部に、一般の反クォンタム存在には存在し得ない何かを芽生えさせた。
それが善なのか、あるいは反クォンタム律に反する兆候なのか、答えはまだない。
ただ一つ確かなことは、あの瞬間を境に、彼は変わったという事実だった。
―あの海が存在する星を探そう。
―そこには、私が探し求めるべき“何か”があるはずだ。
惑星ナックセル。
そこには、惑星エアルトの太古の海を再生した人々がいるという。
もしそれが真実ならば、あの海の記憶を共有する者が、今もどこかに存在しているかもしれない。
ノヴェル・ミライは静かに立ち上がった。
彼の使命―クロノ・ブルーム・プロセスの彼方にある真の人類存続は、まだ終わっていない。

次話につづく……

○極短要約

反クォンタム存在ノヴェル・ミライは二万年前に見た惑星エアルトの海を追い、惑星ナックセルへと新たな探索を決意する。

○文明が「移動」をやめた時、何が失われると思いますか?

○次話予告

歴史を葬ったロボット、ノヴェル・ミライ。
寿命五百年を残し辿り着いた惑星ナックセルで、失われたオルビタルの“かけら”を発見する。封じた真実が、今よみがえる。

⬜用語解説

○反クォンタム
不確定な宇宙に対し、
歴史を意志で収束させようとする
超越的思考原理である。

量子が「揺らぎ」を本質とするのに対し、
反クォンタムは「意志による決定性」を象徴する。

それは単なる否定ではなく、
不確定宇宙の上位に立つ秩序原理を意味する。

「偶然」よりも「方向性」
を選び取る知性の態度である。

すなわち反クォンタムとは、

「不確定な宇宙に対し、
歴史を意志で収束させようとする
超越的思考原理である。」

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