- 三人のジータ
第31話までのあらすじ
ダニール・オリヴォーの地球探索は、銀河復興の秘策を探る試みでもあった。彼の旅は、単なる科学的調査にとどまらず、ハリ・セルダンの心理歴史学を完成させ、新たな工夫を導き出すための戦略的行動でもあった。若き証古学者ガール・ドーニックは、シンナックスでその後継者としての使命を託されることになる。
トランターに到着した直後、ガールはセルダンの裁判に巻き込まれ、危機に陥る。しかし、それこそがセルダンとダニールの巧妙に仕組んだ大計画の始まりであった。やがて彼は、ターミナスへの第五十一執行部員として派遣されるが、その任務は実質的にはナンバーワンの責務を伴うものであった。
任務準備の最中、再びセルダンから新たな指令が下る。気がつけばガールは見知らぬ航宙船の中に立っていた。見上げれば、容姿端麗な女性が静かに立ち、親しげに語りかけてくる。やがて二人は放射能防御シールドに守られた荒涼たる地球の大地に降り立つ。ガールは目の前の光景を眺め、無邪気に遊ぶ少女ウォンダの姿にただ見入るばかりであった。任務の重みは、しばし忘れられたかのようだった。
ウォンダが汲んだ水は三つに分けられ、透明・紫・黄色のシリンダー・ペンダントに収められる。紫のシリンダーは、ターミナスに避難したウォンダの妹ベリスへ渡すことが託された。
時は流れ、100年後。銀河帝国はセルダンの予測どおり、随所に綻びを見せ衰退の兆候が現れる。ファウンデーションは当初、名目上はトランター帝国の辞書編纂図書館設立財団としてひっそりと機能していたが、アナクレオン星区の独立運動をきっかけに、ターミナスは一気に支配下に置かれる。立役者となったのは、サルヴァー・ハーディンであった。
ハーディンの活躍により、ファウンデーションは銀河全域で勢力を拡大し、帝国と正面から対峙する立場を得る。圧倒的勝利の後、ファウンデーションは銀河の主役となった。
その後、グレディアはハーディンの家からドーニック家に養子として迎えられる。彼女の卓越した能力はラヴェンダー農園にティーツリーを植えることで発揮され、銀河の新たな担い手となった。彼女の娘アルカディア(後のミーターの主人とは別人)に敬意を払い、親交を絶やさなかった貿易商人ポニェッツは、後にミーターの地球復興事業において重要な役割を果たすことになる。
さらにアルカディアと娘アルシアは、ターミナスの人口過剰問題を憂慮してスミルナへ移住する。そこで世話になったのが、馬の首暗黒星団付近のネフェロス星の貴族血脈を持つバイロン・ファレルであった。かつてサマーセックの独裁政権に反対する運動員であった彼は、アルシアを妻に迎え、スミルナをファウンデーション連盟の一員にする。やがて歴史学者として、先祖がネフェロスから携えてきた文献『ジョン・ナックの歴史思想書』を再発見し、その解読に専念することになる。
アルシアは娘に自らの名を授けるとともに、不思議なことに母娘は『児童のための知識の書』なる書物を発見する。「断捨離」の意味は、後にアルカディアとロボット・ミーターによって詳らかにされる。人類が次の段階へ進むためには、既存の財産を最小限にし、移動すること――「新しさと移動」の哲学が求められるのである。
やがてアルカディアは母アルシアにターミナスへの帰還を提案する。ここでは、ホバー・マロウの活躍は描かれないが、物語は時代を下り、彼の娘ジータ・マロウの時代へと移ろうとしていた。
第32話 三人のジータ
コレル共和国は、長きにわたる交渉と心理戦の末、ついに無条件降伏した。その結果、ホバー・マロウの名は銀河百科辞典に刻まれ、ファウンデーションの人々の心において、ハリ・セルダンやサルヴァー・ハーディンに次ぐ英雄として讃えられることとなった。
シウェナの穏やかな午後、ジータ・バーは訪問者を迎え入れながら微笑んだ。
「会えて嬉しいわ、ジータさんね。私もジータ。ジータ・バー。あなたより年はずっと上だけれど、こうして会えてよかった。私をマネルナって呼んでね。」
短い手紙を手に、ジータ・マロウは軽く頭を下げた。
「どういたしまして。アルシアおばあちゃんが、『行きなさい』って言ってくれたの。シウェナにも来たかったのよ。お父さんもよく言ってたわ、いい人がいるって。あなたのお父様、オナム・バーさんね。今では、その息子さん、つまりあなたのお兄様がこのコレル地域の総理大臣なのよね。私をベリスって呼んで頂けると嬉しいわ。」
ジータ・バーは微笑みながら答えた。
「そうね。でも、あなたのお父様、ホバー・マロウさんは、この星でも、コレル地域共和国――今ではファウンデーションの一部――全体にとっても英雄よ。いつか直接お会いして、お礼を伝えたいわ。」
その眼差しが真剣になった。
「でもね、あなたはお父様の代理人というだけではないのよ。実は二つお願いがあって、どうしてもシウェナに来てもらいたかったの。」
ジータ・バーは深呼吸し、続けた。
「一つ目は、この星にあなたのおばあ様が始められたアグロフォレストリーを導入したいの。あなたから、第一人者としての能力と知識を学びたいのよ。」
そして、声の調子が少し柔らかくなる。
「二つ目は――ずっと昔、この星で内乱が起きたとき、私の家族は散り散りになったの。命からがら助けてくれた女性がいて、トランターへ連れて行ってもらい、ある家族にお世話になったの。その家族の娘さんが、今この家に来ているの。紹介するわね――ジータ・パルヴァーさん。あなたと同い年かもしれないわ。彼女をウォンダって呼びましょうか?」
窓の外には、コレルの穏やかな森が広がり、静かな風がアグロフォレストリーの苗木を揺らしていた。三人のジータ――それぞれの運命が、ここシウェナで交差しようとしていた。
次話につづく。



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