- もう一人のドース
第五部 TeaTree
ファウンデーションの夢
これまでのあらまし
ダニール・オリヴォーの地球探索は、セルダン計画の裏で「もう一つの銀河復興の秘策」を探る試みでもあった。同時に、若き証古学者ガール・ドーニックをセルダンの後継者に仕立てる計画が進められる。トランターで裁判に巻き込まれるも、それはセルダンとダニールの仕組んだ大計画の一部であった。
やがてガールはターミナスの中心人物となり、謎めいた任務に導かれて地球に赴く。ウォンダとの出会い、水の三つのシリンダーを託された体験は忘れがたいものとなる。
100年後、セルダンの予測通り帝国は衰退し、ターミナスはサルヴァー・ハーディンの活躍で独立を果たし勢力を拡大。やがて銀河の主役へと躍り出る。
一方、グレディア・ドーニックは養女として新たな運命を歩み、ラヴェンダー農園にティーツリーを植える革新によって次の世代の担い手となった。彼女の娘アルカディアを支え、未来に連なる商人ポニェッツの存在が、後にミーターの地球復興の礎へとつながっていく。
第28話 もう一人のドース
銀色のシャトルの船腹が、朝の光を浴びてかすかに輝いていた。発進準備のサイレンスが流れる中、アルカディアは荷物を最終確認しながら、娘に声をかけた。
「アルシア、もうそろそろ出発ね!」
アルシアはすでに搭乗服に身を包み、振り返って微笑んだ。
「お母さん、全部OKよ。―スミルナ、どんな星なんでしょう?ワクワクだわ!」
その笑顔の奥には、幼い好奇心と同時に、少しの不安も混じっているようだった。
「それにしても政府の奴ら、むごいわね! 全部没収されたの?」
アルカディアは肩をすくめ、しかし瞳には冷静な光を宿して答えた。
「大丈夫よ。キャッシュはちゃんとあるから。それにね、アルシア、少しは政府の気持ちも理解してあげないと。人口が百万に膨れ上がって、職場が足りないのはどうしようもないことなのよ。それに、ラヴェンダーとティーツリーのエキスは銀河全域の人々の生活に必要とされているんだから」
彼女はふと微笑んで付け加えた。
「ポニェッツさんもね、『アルカディアさんにはスミルナがいい場所だ』って言ってくれたわ。仕事も協力してくれるそうよ」
アルシアの胸は高鳴った。彼女は少し声をひそめ、秘密を打ち明けるように言った。
「お母さん、実はね . . . スミルナって、天国みたいなところだと思っているの。何度も夢に現れる女の人がいるの。その人がね、『心配しなくていいのよ、アルシア。私はもう一人のドース。あなたを守ってあげるわ』って言うのよ」
アルカディアの表情が一瞬で変わった。
「なんですって! 『もう一人のドース』ですって . . . 。お祖母さんのことかしら?」
彼女はふと遠い記憶をたぐり寄せ、瞳を見開いた。
「あっ! 思い出したわ . . . 。以前、ドースお祖母さんから聞いた話よ。お祖母さんも同じことを聞かされたの。『もう一人のドース』だって」
アルカディアは娘に向かって語り継ぐように続けた。
「そのときにね、ドースのお母さんがガール・ドーニックに出会ったのよ。場所は―モーヴ公園の泉。その泉でね、ベリスも夢に現れたと言ってたわ。そして泉はこう語ったの。
『私はもう一人のドース。ドーニックからもらったシリンダーの水、半分だけ、この泉が欲しがっているの。あげて頂戴』って」
アルカディアの声はわずかに震えていた。
「そうして泉に水を与えたことで、立派なラヴェンダー畑が生まれたのよ。 . . . 私の持っているシリンダーの水が半分なのは、そのためだったのね」
アルシアは言葉を失い、ただ母の横顔を見つめた。母娘を乗せるシャトルのエンジンが低く唸り始め、外の空気が震えた。
スミルナの星が待っている―そして、「もう一人のドース」との謎が。
次話につづく。



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