27. 本当の商人は錬金術師

Tea Tree

第27話 本当の商人は錬金術師 第五部 Tea Tree ファウンデーションの夢

薄暗い収容所の空気は、湿り気を帯びて重かった。だが、鉄格子の影から現れた男の足取りは驚くほど軽快だった。
リマー・ポニェッツ。銀河を渡り歩く貿易商人。彼は牢の奥に横たわっていた囚人を見下ろし、にやりと口角を上げた。

「お前がエスケル・ゴロヴか。三十日間も投獄されていた割には、随分と元気そうじゃないか。俺はリマー・ポニェッツ、貿易商人だ」

うっすらと笑みを浮かべながらゴロヴは上体を起こした。
「恩に切るぜ。アスコーン星に不法侵入した罪で処刑されるはずだったが、まさか商人に助けられるとはな」

「ドジなスパイを拾っちまったのさ。俺だって、しょうがなくて助けただけだ。命を張ってな。いつものノルマを達成できるかどうか、こっちはハラハラしてたんだ」

ゴロヴの目が鋭く細められる。
「 . . . どうして助かったのか、教えてくれるか」

「簡単なことさ」ポニェッツは肩をすくめた。「いつもの常套手段を使ったまでだ。鉄屑を黄金に変えただけよ。二、三日は変換装置を作るのにかかったがな」

ゴロヴは息を呑んだ。
「なんだって! 鉄屑を黄金に変えただと?」

「正確には、そう見せかけただけだ」ポニェッツは楽しげに笑った。「二日もすれば化けの皮は剝がれるが、その前にとんずらすればいい。役人どもは口では『忠誠心』だの『国家』だのと喚くが、裏では自分の欲得がすべてだ。黄金をちらつかせれば、たやすく騙される」

「 . . . 商人ときたら、汚い手を使うもんだな。あんたには道徳心のかけらもないらしい」

その非難に、ポニェッツは皮肉げな笑みを返した。
「助けられたお前が言う台詞か? お前は国家のエリート行政官かもしれないが、ちっともハーディンの気持ちを理解していない。彼のモットーを知らないのか――『正しいことをするのを、決して道徳観念に邪魔されてはならない』とな」

沈黙が落ちた。鉄格子の外から差し込む冷たい光の中で、ポニェッツの声だけが響く。

「それにな、俺の本当のノルマはこれからだ。お前はスパイのノルマすら達成していないじゃないか」

「 . . . 本当のノルマ?」ゴロヴが問い返す。

「これからターミナスに戻って、頼まれものを売りに出すのさ」ポニェッツの瞳が一瞬だけ遠い光を宿した。「アルカディアさんの農場が目に浮かぶ。紫に染まる世界。そのエキスがあれば、黄金なんかいくらでも買える。そして――アルカディアさんの娘、アルシアちゃんの笑顔もな」

ゴロヴは言葉を失った。彼の前に立つ男は、ただの商人ではない。鉄屑を黄金に変える錬金術師――だが、それ以上に未来を見据える策士でもあった。

どちらにせよ、運命の歯車は再び回り始めたのだっ
た。

つづく。

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