第3話 鏡のような名前 ファウンデーションの夢 第四部 嵐の気配
惑星イオスの病院の片隅。冷たい蛍光灯の光が、無機質な金属壁を淡く照らしていた。そこには、解析用のレコーダーが静かに息をしている。奇妙なことに、機械が人間語で会話する姿が、稀に記録されていた。
ダニール・オリヴォーの声は、いつも通り機械的で無感情だった。
「アルーリンは、もう一人のドースを無事にターミナスに送り返したようだな。お前の仕事も一段落したようだ。」
ドースは肩をすくめ、軽い嘲笑を浮かべた。「ダニール、あなたって相変わらず機械的な言い方しかできないのね。それでよく帝国の宰相やハリの友人の役がつとまったわね!」
ダニールは無表情のまま応じる。「それはご挨拶だ。お前をこの星で製造したのは私だ。しかし、お前こそ、私の失敗作かもしれない。あまりにも人間の女性以上ではないのかもしれないな。」
彼の声に、わずかに遠い記憶の影が混ざる。孤児であったレイチを貧民窟で見つけ、ハリの養子として育て上げ、そしてその娘ウォンダを第二ファウンデーションの指導者として導いた日々。その軌跡は、今や「星界の涯」を一人で機能させるに十分なものとなっていた。
「今ではすでに、彼女なしでも十分に宇宙の秩序は回っている。そしてお前が機能不全に陥り、ハリから離れたとしても . . . お前が陰ながらハリの面倒を見たとは言え、ウォンダはハリの片腕以上に成長した。」
ドースは静かに、その言葉を噛み締める。胸の奥に、微かな誇りと戸惑いが入り混じる。
ダニールの視線は冷たく、しかし興味深げに彼女を捉えていた。「ところで、ドース。もう一人のドースは、偶然にしては、なぜ同じ名前なのか?」
ドースは小さく笑った。「地球に二人を送る際、ガール・ドーニックが寝ている間に彼をシンパシック・ハーヴェイ号に運ぶ最中、ウォンダが突然叫んだのよ。『お婆ちゃん。ドース』って。」
ダニールは微かに首を傾げる。「なるほど。それで地球で彼の感応力が覚醒し、その名前が潜在意識に刻まれた。そして娘が生まれたとき、その名をつけた . . . と。」
彼の声に、かすかな敬意が混じる。「しかし、それにしてもお前と瓜二つではないか。彼女もまた、お前以上の『宇宙の女』なのかもしれないな。」
金属の壁に反響するダニールの声は、静寂の中で響いた。「宇宙の意思は、私とジスカルドの『第零の法則』など、米粒に等しいほど小さく、比較にならないほど偉大なのかもしれない!」
その言葉は、解析レコーダーに淡々と刻まれた。未来の誰かが、ここで交わされた機械と人間の会話を再生したとき、そこに潜む複雑な運命の糸が、ようやく光を帯びることだろう。
次話につづく . . .



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