- ドース 涙の太陽
二万年後の銀河シリーズ|ファウンデーションの夢
第八部 アルカディアの遺言 第6話
ターミナス暦四四三年。
ラヴェンダー色の光が、窓辺のカーテンを透かして静かに室内を満たしていた。
老女アルカディア・ダレルは、椅子の背にもたれながら、目の前の銀色のロボットを見つめていた。
それはミーター・マロウ——彼女の長き伴侶であり、ファウンデーション史の生き証人、そして心理歴史学者ハリ・セルダン、ガール・ドーニックの遺志を継ぐ者であった。
「ミーター、“放射能”。」
アルカディアはゆっくりとその言葉を口にした。声は震えていたが、確信を含んでいた。
「ねえ、それに答える前に言っておきたいことがあるの」
ミーターの陽電子脳が静かに光を帯びる。
「どうぞ、アルカディア様」
アルカディアは遠い星を思い出すように微笑んだ。
「夢でね、よくドース・ヴェナビリさんが出て来るの。よく話をするのよ」
「ドースさんが?」ミーターが問い返す。
「そう。我らが母ドース。女神ドース・ヴェナビリ、偉大なるハリ・セルダンの可愛い奥さん!」
その声はどこか少女のようだった。
「夢の中でいつも訊くの。“第零法則で、この銀河を救うことは出来ないのですか?”ってね」
ミーターの胸部パネルが一瞬、微弱な光を放った。
「そうすると、彼女は笑って、優しく答えてくれるの」
アルカディアは両手を胸に当て、目を閉じた。
「“アルカディーちゃん。いいわね、Rの生き甲斐っていうのは、陽電子の動きで、人間の開かれた未来に自分たちの夢を託すの!”って」
ラヴェンダーの香りが濃くなり、空気がわずかに震えた。まるで時空の狭間が開くように。
「そしてね、我らが母ベリスに現れた黒い涙の太陽 . . . あれが語りかけてくるのよ」
アルカディアの声は熱を帯びた。
「“アルカディア、あなたがわたし(太陽)を救うのです”って!」
ミーターは沈黙した。
老女の語る幻視の中に、彼の回路の深層に刻まれた“第零法則”の輝きが共鳴していた。
「そういう声を聞いて、いつも目が覚めるのよ」
アルカディアは天井を見上げながら微笑んだ。
「ねえ、あれってなんだったのかしら? それが――銀河文明の謎を解く鍵なんだわ!」
彼女は一息つき、ミーターを見つめた。
「“放射能”。それってね、銀河の究極的意味の源泉なの。ファウンデーションの夜明けが見えてきたの!」
そして、まるで自らの最期を悟るように微笑んだ。
「皮肉にも、わたしの終焉の間際に、ねえ . . . 」
ミーターは静かに彼女を見つめ続けた。
その銀の瞳の奥で、ドースの涙のように光る星々が、静かに瞬いていた。
次話につづく



コメント