月の民の足跡⑪ 月神の国 大分(佐藤達矢 稿)

佐藤達矢稿

月の民の足跡⑪ 月神の国 大分

 写真は大分県由布市庄内町平石にある山中の遺跡。

 平たい石を敷き詰め、四角形の石壁を作っています。
 この形状の遺跡は同じ大分県の臼杵市の津久見島、津久見市の網代島にも見られるほか、福岡県の宝満山や壱岐島にも見られる。おそらくは海上交易を行っていた人々が祈願していた海上交通の神様なのでしょう。

 庄内町の遺跡は水の湧き出る山中にあります。そこが川の始まりだから、川を下り、海に出て、交易品は運ばれました。古代でも交易は活発で、特に大分県は朝鮮半島との交易が盛んでした。

 宇佐公康著「古伝による古代史」によると、宇佐神宮はもともと月神を祀る神社であり、それが神功皇后の頃に置き換えられて「比売大君」というご祭神になったようです。

 「比売大君」は卑弥呼とも、豊玉姫とも、宗像三女神とも推定されますが、あえて個人名にはせず、「偉大なる姫様」という意味の一般名詞のまま祀ってあるのは、このような人々を総称しているからなのかもしれません。・・・だとしたらその中には「月の神」も含まれていることでしょう。。

 そういえば、大分川の源流を遡り、最も川上まで来たところにある湯布院の「宇奈岐日女神社」は「ウサギヒメ神社」の転訛とも思えます。また、大野川の河口近くにある西寒田神社のご祭神は、もともと月読命だったようです。やはり神功皇后の頃、をいじられ、さまざまな神様と合祀されてしまっていますが、もとはといえば月読の神様を祀った神社であったようです。

 月の民のルーツは中央アジアまで遡ります。
シルクロードを行き来していた遊牧民が祖先たちです。彼らにとって、暑い太陽は苦痛の種であり、日差しの強い日中は日陰でやり過ごし、月の煌々と輝く晩に旅を行った。月は彼らにとってやさしさの象徴であり、守り神でもありました。

 同時に、月はまた、旅の方角と日程を教えてくれる存在でもありました。月の出る方向に向かえば、交易の道を知ることができます。また、月との満ち欠けにより、出発したときから何日が経過しているのかということを知ることができました。
 月と同時に、北斗七星やオリオン座などの運行を知っていれば、より正確な方角と期日を導き出すことも可能でした。

 臼杵市にある津久見島は、古代、この地から出航した船乗りたちが星を観測するのに最適な島でした。その名ももともとは「月見島」であったようです。

 カレンダーのない時代、季節を知るためには夜空の星を観測するしか方法はありませんでした。そして、空のどの地点にどの星があるのか、ということを観測するためには、星が高く昇ってしまってからではわかりにくくるので、間違いなく観測するためには、日没直後、もしくは夜明けの直前、水平線上のどの方角に、どういう星が出ているかということを見極め、季節を見極めていたのです。

 種蒔きをする季節には、どの方角にどの星が昇る。田植えの季節にはどこにどの星が、稲刈りの時は・・・というように、季節を知らせる星がありました。

 臼杵の浜から津久見島を見てみると、まるで天空に向けて三角定規を置いたように、見事な二等辺三角形の形をしています。浜の一か所に定点観測所を置き、毎年そこから同じ角度で観察すれば、季節を間違えずに見極めることができるでしょう。

 そして舟人は舟上から祈りを捧げました。海運の無事を祈って。
 古代の舟は木造りの簡素なものでありましたから、台風などで沈没してしまうことも珍しくありませんでした。平安時代の遣唐使船の渡航成功率が50%だったといいますから、古代の航海はもっと危険をともなうものだったかもしれなません。舟人にとって、神への祈りは必須の行為でした。

 舟上から神に礼拝するため、人々は目につく島の上に祠を作りました。舟人は島や入り江の形を覚えて航路を記憶ましたから、津久見島は臼杵川を出発点とする交易商人たちの拠点のランドマークでもありました。

 現在、無人島再生プロジェクトという活動を行っている人々によって、この島が再整備されつつあります。長らく無人島になっていた島ですが、この島はどうやらウエツフミや古事記・日本書紀に書かれた、豊玉姫出産の地である可能性があります。プロジェクトを行う人々の清掃活動によって、平石を敷き詰めた巨大な石段が島の砂浜から頂上へと延びているのが発見されました。やはりこの島は「祈りの島」だったわけです。

 人の祈りというのはエネルギー体であり、消えることはありません。古代より多くの人々が祈りを捧げてきたであろうこの島には、集積されたエネルギーの力があります。

 暦が整備され、造船技術も飛躍的に向上した現代においては、この「祈りの島」は忘れられた存在となっています。しかし、現代でもなお、霊感の強い人、過去生の記憶の一部を持って生まれてきた人等には、なにか感じるものがあるようでもあります。

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