97. 禁断の星の座標

イルミナ
  1. 禁断の星の座標

「孤独を増幅する力と、孤独を溶かす力――銀河の未来はその差で決まる。」

その星は、存在しないことになっている。
だが――忘却の中にだけ、道標が残されていた。
禁断の星レガシア。記憶だけが辿れる航路。

ミーターは、観測室の半透明スクリーンに広がる星図を見つめていた。

惑星レガシア――禁断の星。

だが、その座標は銀河標準データベースから完全に削除されている。イルミナの図書館にも痕跡はない。存在そのものが「忘却」された星。

「……妙だな」

ミーターの人工脳に、かすかな残響が走った。

アポリアナの遺した著作――『追憶回路』。

あの中に、確かに示唆があったはずだ。直接の座標ではない。だが、迂回する道筋が。

その瞬間、ホノグラフが揺らぎ、イルミナが現れた。

「ミーターさん、あなたってホントは凄いRなんですね! 見直したわ。あなたの回りを囲んだ女の子の数、ありゃ、まるでアイドルみたいじゃないの!」

「何を言ってるんだい、イルミナ。人間の女の子にモテても仕方ないだろう。それより――珊瑚礁の海の中、最高だったぜ」

「ロボットが海の中に入るなんて!」

イルミナは呆れたように肩をすくめる。

「ねえ、エムーはなぜミウォールを本拠地にしたの? 昔から銀河一の歓楽街だったのは知ってるけど。アポリアナの『追憶回路』も、『幾千回目の約束』も読んだのに、さっぱり分からないの。教えてくれない?」

ミーターは星図から目を離さなかった。

「銀河の秘密をばらしてどうする。エムーの謎解きが、銀河復興の要なんだ。答えはちゃんと書いてある。だが公表はしない。特に図書館にはな」

「ケチ! 尊敬しようと思ったのに。最低!」

「そう言うな。図書館に提示しないという約束なら、お前だけには話してもいい」

ミーターの声は低くなった。

「歓楽街は、人間社会の濃厚な縮図だ。仮初めであっても、本音がぶつかる。金銭が絡もうと、そこには剥き出しの心理が浮かび上がる」

観測室の窓外で、星々がゆっくりと流れる。

「エムーはそこに目をつけた。感情の機微を掴み、自身の“感応力”で増幅する。個々の孤独を束ね、巨大な力に変える。銀河支配は、その延長線上にあった」

イルミナの表情が変わる。

「……でも、ベリーは一日で彼の首根っこを押さえた」

「そうだ」

「エムーは完璧に孤独だった。ベリーはそこを突いた。無意識のうちに、ね。彼女の感応力の根源は、“慈しみ”。奪う力じゃない、包み込む力。だから最初から、結末は決まっていた……そういうこと?」

ミーターは微かに頷いた。

「孤独を増幅する力と、孤独を溶かす力。その差だ」

沈黙。

やがてイルミナが、じっとミーターを見つめる。

「じゃあ、聞くけど。エムーの感情操作は、どこから来たの?」

ミーターの内部回路が、微細な振動を起こす。

アポリアナの言葉。

禁断の星レガシア。

遍在の賢人。

断片が結びつき始めていた。

エムーの力は、突然変異ではない。

源流がある。

そしてその源流は――。

ミーターはゆっくりと進路を再計算した。

「イルミナ。まずは、失われた航路記録へ向かう。レガシアの座標は、直接は示されていない。だが“回り道”がある」

「回り道?」

「アポリアナは、忘却の中に道標を埋めた。思い出す者だけが辿れる道だ」

 星図に、新たな光点が浮かび上がる。

 禁断の星へ続く、記憶の航路。

「聞いてるの、ミーター?」

「ああ、聞いているさ」

ミーターの光学センサーが、かすかに輝いた。

「エムーの感情操作の源――それは、この旅の先にある」

ナディール号は、静かに針路を変えた。

紫の彼方へ。

つづく . . .

○前話の要約 96. 追憶の鍵を開けて②
ミーターは白昼夢の中でアポリアナとの過去を思い出し、イルミナとの現実に戻る。
銀河の復興と個人の記憶が交錯し、ナディール号は新たな惑星への航路を描く。

○次話予告 98. 禁断座標レガシア ― 花叢に触れる者
歴史から“削除”された惑星レガシアは、クロノ・ブルームを隔てる緩衝層だった。
ミーターは観測者を捨て、歴史に触れる決断を下す。
もし望まれるなら、
この第98話は「文明構造三層論」における干渉層の発見回として理論化できます。
かなり核心に近づいています。

① 一行思想フレーズ

「孤独を増幅する力と、孤独を溶かす力――銀河の未来はその差で決まる。」

② 極短要約
禁断の星レガシアの座標は銀河から抹消されていた。
だがアポリアナの『追憶回路』は、忘却の中に“回り道”を残していた。
エムーの感情操作の源流を求め、ナディール号は紫の彼方へ針路を変える。

③ フック
その星は、存在しないことになっている。
だが――忘却の中にだけ、道標が残されていた。
禁断の星レガシア。記憶だけが辿れる航路。

④ 問い(コメント誘導)

もし「孤独を増幅する力」と「孤独を溶かす力」が対峙したなら、
あなたはどちらが最後に勝つと思いますか?

⑤ ハッシュタグ

ミーターの大冒険

二万年後の銀河シリーズ

紫からの飛躍

禁断の星

SF小説

銀河復興

感応力

宇宙叙事詩

⑥ 用語解説

○レガシア(Legasia)
銀河標準データベースから完全に削除された禁断の星。存在そのものが「忘却」されている。
エムー(Mule / ミュール)
強力な感情操作能力=感応力を持つ存在。孤独を増幅し、群衆心理を束ねることで銀河を支配した。

○ベリー・ペリゴール
エムーを打倒した少女。感応力の源は「慈しみ」。孤独を溶かす力を象徴する存在。

○アポリアナの著作『追憶回路』
失われた航路の“回り道”を暗号的に埋め込んだ著作。忘却の中に道標を残した鍵文書。

○感応力
他者の感情を読み取り、増幅または変容させる力。支配にも救済にもなりうる両義的能力。

「孤独を増幅する力と、孤独を溶かす力――銀河の未来はその差で決まる。」

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