72. アポリアナの精神

旅立ちの助走(Hop before Leap)
  1. アポリアナの精神
    ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍 第4話 — 銀河復興へのプロローグ

銀河史の転換点は、しばしば静かな場所から始まる。

―たとえば、アポリアナが眠るラヴェンダー畑のように。

◆あらすじ

81歳で逝去した女性指導者アポリアナ。彼女の死は、銀河文明の未来に大きな空白を生んだ。しかし、アポリアナに深い感銘を受けていた元ジャーナリスト 、ハニス ・イザルは、翻訳ロボット ミーター、技術者 オリン・バー の面倒を見ることを決意する。

ミーターは彼に、アポリアナの最終遺言―銀河復興計画(Galactic Renaissance) の全貌を語る。

それは危険で無謀に思える壮大な挑戦だが、ハニスは迷わなかった。

彼自身が、かつて銀河史に名を刻んだ人物だったからだ。

◆第4話 本編 アポリアナの精神

 広大なラヴェンダー畑の中央には、風に揺れる紫の波がどこまでも続いていた。その中心にある小高い丘が、わずかに振動した。

 ごうん…

 地面全体が静かにスライドし、花々を傷つけることなく地下へと口を開く。現れたのは巨大な格納庫―かつてあったアポリアナが極秘に建造した宇宙船ドックであった。

「驚いたな、ミーター君……!」

ハニスは圧倒された声で言った。

「この丘そのものがリフトになっているとは。垂直離着陸型タンカー宇宙船でも余裕で収まる規模じゃないか。アルカディアさんがここまで準備していたとは……。行動力も、先見性も桁外れだ。いや、恐れ入ったよ」

 ミーターは少しだけ誇らしげに、そして寂しげに笑った。

「ハニスさんが、彼女をそこまで理解してくださるなんて……。ありがたいです。

―多分、銀河でいちばんのアポリアナ理解者ですよ。僕を除けば、ですが」

 ハニスは紫の畑を見渡しながら、静かに語り始めた。

「俺は、リセル岬の洞窟で消失したと思われていた『ヒュー文書』を発見し、アポリアナさんに届けたことがある。そのとき、彼女から“ジャーナリズムとは何か”を初めて教わったんだ」

 ミーターのセンサーが、ハニスに向けて微かに傾く。

 ハニスの脳裏に、あの日のアポリアナの声が蘇る。

◆アポリアナの言葉 — 銀河復興の核心

「ハニスさん、よく聞いてね」

 彼女は窓辺に咲く淡黄色の ヘディキウム(花縮砂) に触れながら話し始めた。

「私は祖母ベリー・エコーの生涯を丁寧に調べ、この銀河の謎の一端に触れたの。

あなたは信頼できる人だわ。だから話すけれど……」

 アポリアナは花を指で弾き、微笑んだ。

「“無意味だと思われたものに、本当の意味を与える力”を、あなたは持っている。

 これは才能よ。ジンジャーの花言葉そのものね」

 そして、声を少し潜めて続けた。

「予知とは、突き抜けたひらめきと、別のひらめきを結びつけること。

大切なのは“意味”に集中すること。そして太古から続く 大量行動の原則 に従って、勇気をもって踏み出すことよ。

 行動すれば、結果はおのずと現れるの。

 忘れないで、人間は本来弱い―その自覚こそが強さにつながるわ」

 最後に彼女はこう付け加えた。

「『鶸(ひわ)』も『花縮砂』も、同じ意味を持つのよ」

 記憶を語り終えたハニスは、しばらく紫の風景を見つめた。

「……あれが、俺が受け取った“アポリアナの精神”だ。

ミーター、俺は覚悟を決めたぞ。銀河復興という無謀な旅―

彼女の遺志を、君と一緒に継ぐ」

 ミーターは、人工知能とは思えないほど柔らかい声で答えた。

「ハニスさん。ありがとう。

ポリーも、きっと喜んでいます」

 ラヴェンダーの香りが、地下へと吹き込む風に混じり、二人の前へ漂った。

それは銀河文明再生のプロローグの幕開けを告げる芳香だった。

つづく。

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