- 新たな三人組
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍 第2話
あらすじ
アポリアナ・ペリーゴールが81年の生涯を閉じた。
彼女に深く心酔していたハニス・イザールは、アポリアナの遺志を継ぐため、翻訳ロボット・ミーターと老技術者オリン(アポリアナの幼なじみ)の保護者となることを決意する。ミーターはアポリアナの遺言をすべて彼に開示し、ハニスは銀河復興という無謀ともいえる理想を、二人とともに歩む覚悟を固めてゆく—。
本文
ライプニッツの町から吹き寄せる恒星風が、傾きかけた夕光の中でざわめいていた。アポリアナの屋敷の前に降り立ったハニス・イザールは、深い紫の草原をゆっくりと踏みしめながら玄関へ向かった。
その姿を、ミーターは玄関越しに静かに迎えた。
「ハニスさん。ライプニッツの町からここまで、ずいぶん遠い道のりだったでしょう。お越しくださり、ありがとうございます」
ロボットの柔らかな声に、ハニスは目を細め、肩にかかる旅衣の埃を払った。
「なあに、ミーター君。ポリー—アポリアナさんのためなら、銀河の果てだって駆けつけるさ」
その口調には、喪失に沈む者特有の温い震えがあった。
「彼女は、私にとって人生の宝石だよ。銀河の闇を照らすスターであり、人類の未来を導く希有な賢者だった。やさしく、知的で、そして誰より深い慈愛に満ちていた」
ハニスは静かに屋敷を見渡した。そこにはまだ、アポリアナの気配が宿っているようだった。
「クロノ・ブルーム理論を私に教えてくれたのも彼女だ。銀河復興の骨組みさえ、彼女の言葉によって形を得た。そんな大先生に頼まれたのさ。君を守り、オリンさんとともに歩むように、と」
ミーターは、小さく頭部をうなずかせた。
「オリンさんも、ポリーと何か大きな約束を交わしていたようだね。ネオ・リリナス辞書編纂図書館を一から建て直す壮大な計画だとか」
「ハニスさん、本当に……ありがとうございます。これからいろいろとご厄介になります。でも、モーヴ—アーカイヴの都でのお仕事はどうされるのです?」
ミーターの問いに、ハニスは少し間を置き、ため息を落とした。
「辞めてきたよ。あそこはもう、光を失いつつある。アーカイヴ自体が、死にゆく銀河のように陰鬱だ」
彼の瞳には、遠い星雲の陰りのような色が宿った。
「ましてや、新任の警察署長リーン・セルヴァが着任してからは、暗さが濃くなった。チャンドラ星の官僚だが、あれは危うい。ウルバン政権よりも……いや、もっと不気味と言うべきか」
「ハニスさん、リーン・セルヴァとは……どんな人物ですか?」
「灰色のもじゃもじゃした口ひげに、胸の外ポケットには真紅の布。威圧的で、妙に芝居じみていてね。制服の影が市民の心までも覆うようだった。あれが街を支配する光景を見て、私は悟ったのだよ。もっと大事な使命があると」
ミーターは、その言葉を深く受け止めるように静かに頭部を傾けた。
「では、私たちは……どこから始めるのでしょう?」
ハニスは振り返り、ロボットの眼部センサーをまっすぐに見つめた。
「心配いらない、ミーター君。まずは君のデータバンクの掘り起こしから始めよう。アポリアナさんが託した知識と記録—それこそが、この銀河を再び目覚めさせる第一歩になる」
ミーターの胸部に埋め込まれたコアが、微かに光を放った。
「なるほど……ごもっともです! えっへん!」
その軽やかな声に、ハニスは久しぶりに笑みを浮かべた。
こうして—
アポリアナの遺志を継ぐ、奇妙だが力強い三人組が誕生したのである。
つづく



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