67. 甦りの水

アルカディアの遺言
  1. 甦りの水 ファウンデーションの夢 第八部 アルカディアの遺言 第10話

紫紺の光がゆるやかに脈打つ室内で、アルカディアは二本のシリンダーを掌に載せた。ひとつは優美な紫の液体を湛え、もうひとつは外殻こそ白いが、内部は透き通るような透明の輝きを宿していた。それらは彼女の家系を何代にも渡って流れてきた、静かな運命の水脈そのものだった。

「私の家系はね、代々の女性たちを通してこの紫色の液体のシリンダーを伝えてきたのよ」

彼女はゆっくりと語り始めた。その声音には、古代トランターの歴史図書館に響く低い鐘の音のような、深い記憶の残響があった。

「白い外殻のシリンダーは、お母様──トランターから伝えられたもの。初代のウォンダさんには娘がいなかったから、亡くなる前に妹のベリスの娘、ドースに直接手渡されたの。R・ドース・ヴェナビリとは別人だけれどね。そしてジータさん──私の先祖がそれを再びトランターのウォンダ・ジータさんへ返したのよ」

アルカディアはシリンダーを胸の前でそっと組むように重ねた。

「その後も何代かを経て、お母様の手に戻り、今は私のところへと巡り来たの。だから私は、二つとも持っているわけ」

彼女は微笑したが、その瞳の奥には未来を見据える星のような強い光が宿っていた。

「このシリンダーを持つべき人が、いつかあなたの前に現れるわ。その場面を想像するだけで、胸が高鳴るの」

ミーターは、愉快そうに肩をすくめた。

「アルカディ、言っとくけど、僕の頭脳は明晰だけど、君の家系図はめっぽう込み入ってるんだなあ!」

その軽口にアルカディアはくすっと笑い、しかしすぐに真剣な表情へ戻った。

「ミーター、いい? まだあるのよ。私が見たこともない黄色い液体のシリンダーが、もう一本存在するはずなの。あなたはきっと──そのシリンダーを持つ女性に会えるわ」

彼女の声は、未来の扉の鍵が今まさに鳴ったかのように響いた。

「三色のペンダントはね、甦りのシンボルなの。混沌と衰退からの再生を示す印」

 アルカディアは紫・透明・そして存在するはずの黄色──三つの色の象徴を見つめながら続けた。

「ウォンダが『ふるさとの星』の島から湧き出す泉の水を採取して作った“甦りの水”。あれは、故郷の星そのものが、汚染から立ち上がり再生したいと願った証でもあるの。ウォンダはその時、“ふるさとの星”の涙を感じたんだわ。きっと心が通じ合ったのよ」

アルカディアは両のシリンダーをそっと閉じ、遠くを見つめた。
その視線は、かつて失われ、そして未来に甦ろうとする銀河の遥かな呼吸へと向けられていた。

ミーターは、その瞬間、幻覚を視たのか。目の前のアルカディアの姿が二十歳代の女性に、二つのシリンダーが大きく彼に迫って来るような。もしかして、アルカディアとウォンダとが重なったのかと。

予告
「第八部 アルカディアの遺言 」最終話
『ファウンデーションの夢』完結
『第11話 夢を引き継ぐもの』にご期待。
二万年後の銀河シリーズ第2弾
『ミーターの大冒険』「第一部 跳躍」(Leap)、(Salto)へと続く架け橋になります。

長い語りを終えたアルカディアは、別れを前にミーターへ最後の言葉を残す。

彼女は、
・オリンサスを助けてほしいこと
・しばらくはジスカルド・ハニスを頼ること
・ハニスにはハーラ・ブラノという灰色の髪の少女に注意するよう伝えること
を告げる。

さらにアルカディアは、かつてウォンダが死の間際に語った「三色の花をクローバーが束ねていた」伝承を語り、それが「夢を引き継ぐ」象徴であると説明する。

「今、私はあなたに私の夢を託します」とミーターに告げ、二人はいつもの呪文
「直感、感応、触れ合い、溶け込み、融合、歓喜、充満 . . . 」
を唱える。

ミーターが名を呼ぶ中、アルカディアの遺言は静かに完結する。

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