93. 甦りのミーター・甦りのナディール号

イルミナ
  1. 甦りのミーター・蘇りのナディール号
    イルミナ 第3話

ミーターが意識を取り戻したとき、最初に覚えたのは、奇妙な既視感だった。

金属床を伝ってくる微かな振動、循環系が刻む一定のリズム――それは、彼の記憶に深く刻まれた宇宙船の感触そのものだった。

《ミーター、ミーター。目が覚めましたか?》
頭上から降り注ぐ声が、停止していた思考領域をゆっくりと再起動させる。

ホログラフ投影装置が淡く輝き、そこに現れたのは、惑星ネオ・エーテルの連邦図書辞書編纂図書館のヴァーチャルAI、イルミナだった。彼女は、亡きアポリアナのおきみやげの一つである。

《ナディール号へようこそ。ご帰艦は、実に四年ぶりですね》

ミーターはゆっくりと身を起こし、自分が確かにナディール号の船内にいることを理解した。

操舵室の構造、隔壁の配置、船体の微かな軋み、すべてが、あのときのままだ。
それが、かえって不可解だった。

「なぜ……俺はここにいる?
イルミナ、君は無事だったのか?」

彼は船内を見渡しながら問いかけた。あの災厄を思えば、この船が存在していること自体が信じ難かった。
《ここは、惑星イオスから四パーセク離れた、惑星シナプスの軌道上です》
イルミナは静かに告げる。
《ドーラ・ウェーブさんが、眠っていたあなたをここまで運んでくれました》
そして、続けて事実を補足した。
《ナディール号も、決して無事ではありませんでした。
あなたが修理のため船外に出た直後、二度目のバーストが発生し、船体は致命的な損傷を受けたのです》
だが、そこで終わりではなかった。
ドーラ・ウェーブと彼女の率いるロボット群が到着し、ナディール号は修復された。その修理に用いられたのが、淡い紫色の液体――ラヴェンダー抽出液だった。
《あの修理方法には驚かされました》
イルミナは率直に言った。
《なぜ、ラヴェンダーだったのですか?》
ミーターは一瞬、遠い記憶を辿るように沈黙した。
「俺の身体も、同じものに救われた。
ラヴェンダーの温泉に、毎日十時間以上浸かってな。異常な高温だったが……意味があると、Q・レオナルド・エンスノヴィは言っていた」
薄紫色の湯と、強く甘い芳香。

それは、アポリアナ・ペリゴール家の農園――通称ペリゴール農園を否応なく想起させるものだった。

「おかげで稼働を維持できた。
今は……状態も良好だ」

その表現に、イルミナはわずかな違和感を示した。

《奇妙ですね。
あなたはロボットなのに、「救われた」とか「状態が良好」だとか……まるでホモジーンのような言い回しです》

その言葉に、ミーターの演算回路が鋭く反応した。
「今、何と言った?
イルミナ、君は“ホモジーン”という語が、シリウス系共通語で二つの意味を持つことを承知で使ったのか?」
《二つの意味、とは?》
「一つは、“人間もどき”。
もう一つは、“遍在の賢人”だ」
短い沈黙の後、イルミナはどこか愉快そうに応じた。

《まあ……
ミーター、あなたは本当に、通訳と翻訳の天才ですね》
ナディール号は静かに、惑星シナプスの軌道を周回し続けていた。

その船内で、ミーター・エコーは、自らの「甦り」が何を意味するのか、まだ完全には理解していなかった。
ただ一つ確かなのは、彼がもはや単なる反クォンタム頭脳の機械ではなく、
ホモジーンと遍在の賢人の境界に立つ存在になりつつある、という事実だった。

次回につづく . . .

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