87.マヌエル・アルグレの銅像の下で

旅立ちの助走(Hop before Leap)
  1. マヌエル・アルグレの銅像の下で

― 銀河再興SF・反クォンタム律と人間の選択 ―

ミーターの大冒険
第一部 紫からの飛躍
第19話

あらすじ

 アポリアナ・ペリゴールは、八十一歳でその生涯を閉じた。
 その死を境に、ハニス・イザル(Hannis Izal)の直感と、
 ミーター(Meter)の柔軟かつ精緻な論理思考は、かつてない冴えを見せる。
 「クロノ・フラワー」、輻射キューブ、そして
 反クォンタム律(Anti-Quantum Axiom)――
 彼らはついに、それらの本質的理解へと到達したのだった。
 残された課題は、オリン・バー(Orin Barr)による銀河図書館の改造、
 そしてナディール号の建造のみである。
 ハニスは、銀河復興への第一歩が、静かに、しかし確実に胎動し始めたことを感じ取っていた。
 それは、ドーラ・ウェーブの盟主の意図によるものなのだろうか。
 彼の背筋を、微かな戦慄が走る。
 いまハニスは、通常の人間には許されていない限界点を越えようとしていた。
 彼はまず惑星イオスでドーラ・ウェーブと会い、
続いて、かつて天の川銀河の中心都市であった
惑星リリナスへと降り立つ。
果たして、第二のコーデックス(コンシューアム)の感応能力によって、
 ハニスへの干渉のボーダーラインは、どこに設定されたのか。
 彼の記憶は、どこまで、どのように保持されるのか。
 ハニスは、アポリアナに続き、単独人としてのボーダーラインに立っていた。
 やがて彼は、コンシューアム(第二コーデックス)の第一調律師(The First Tuner)と対面する。
 そこで解き明かされた壮大な宇宙史は、ハニスを圧倒するに十分だった。
 こうして、彼の探索は終わる。
 暗示されていた「反エムー」には遭遇できなかったものの、ハニスはこの成果をミーターへの土産として携え、惑星ネオ・エーテルへと凱旋した。
 カルヴィン・アーキヴィオ、ノヴェル・ミライ、
 そしてミーター・エコー。
 反クォンタム律を遵守するロボットたちの歩みを思い、ハニスはついに、自らの命をミーターに捧げる決意を固める。
 それは、反クォンタム律を信奉する人間を生み出す道へ進むことだと、彼自身が悟ったからである。
 新しい銀河は、人間自身の手で創らねばならない。ミーターは、そのハニスの志を、心からありがたく受け取った。
 ハニスは、二つのコーデックスが反エムーとの共鳴を受容しつつ、銀河再興の時を予見していることを確認し、帰還する。
 残された最大の課題は、アーカイヴ―惑星ネオ・エーテルの進むべき方向性であった。
 ハニスは政治家を志す。
 しかしそれは、想像以上に熾烈な難問となる。
 政府当局が、彼ら三人組の存在に気づき始めたからだ。
 ハニス主導の「銀河再生党」は、カサンディ・メイアー率いる
 「ネオ・エーテル第一」に惨敗する。
 ミーターとアポリアナを模したチクタク(単純型ロボット)が投入され、アポリアナの人気は巧妙に利用された。
 そこでハニスは、ミーターの進言を受け、イフニアへの遷都案を決意するが―。
 一方で、オリン・バーの持病である心臓病は、静かに悪化していた。
 三人の運命は、いかなる結末へと向かうのか。

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(全文:オリン・バーのロン・シンファーを通してのハニスからミーターへの走り書き)
 ハニス君。
 残念ながら、私個人の力では、
 銀河百科辞典編纂図書館の
 イルミネーショナー化を、
 諦めざるを得なくなったようだ。
 昨日、持病の心臓発作が悪化した。
 薬は、もはや効かなくなっている。
 すまないが、
 アポリアナやミーターとの約束も、
 果たせそうにない。
 先の選挙で「ネオ・エーテル第一」が圧勝した影響で、一般図書館利用者を装って続けてきた
 内部システムの改修も、急に頓挫してしまった。
 当局に知られてしまったのだ。
 とくに市長側近のリーン・チャンドラは、
 私をアポリアナの身内と見抜いた。当然のことだが、反抗分子は次々と駆逐されている。ところが幸運にも、君も知っているアマン・シンファーの息子、ロン・シンファーが、辞典広場のマヌエル・アルグレ博士の銅像の下で倒れていた私を見つけ、救ってくれた。彼は銀河の遥か反対側から最近やって来て、
 ネオ・エーテルとの同盟関係を頼りに、図書館員として採用されたらしい。
 私の感覚では、彼には一般人にはない、奇妙な能力がある。
 周囲の人間を、無意識のうちにコントロールしてしまう力だ。
 そこで私は、私の代わりにこの仕事を完成させてほしいと頼んだ。
 驚いたことに、彼はそれを何の躊躇もなく引き受けてくれた。
 奇妙な出来事だと、思わずにはいられない。
 この手紙が君に届く頃、私はもう、この地上で息をしてはいないだろう。
 それでも、なぜ彼の存在が、
 これほどまでに私を驚かせたのか―その理由を、少しでも伝えたかった。
 直接話せないことが、ただただ残念だ。

つづく。

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