- アスクシオンの秘密
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍
第15話
ここアスクシオン地区は、静謐だった。
金属という金属が、まるで思考を休止したかのように整然と眠り、機械群は沈黙のうちに未来を待っていた。
その中心施設で、ハニス・イザルは一人の男と向かい合っていた。
名をシェ・アチューナルという。だが、それは固有名ではなく、役割であり、連続性そのものだった。
アチューナルは、穏やかな声音で語り始めた。
――ここアスクシオン地区に存在する金属資源、機械類、集積回路のすべては、あなたに提供されます。
ドーラ・ウェーブ殿からの連絡もありました。われわれは、快く協力しましょう。
二つのコーデックス、そしてもう一つの存在が一致して、暗闇から銀河を復興させる――それこそが、われわれに課せられた唯一の願いなのです。
ハニス・イザルは、即答しなかった。
彼の思考は、言葉の奥に潜む「連続」を捉えていた。
「シェ・アチューナルさん」
彼は静かに問いを投げた。
「あなたは……何人目の第一調律師(The First Tuner)なのですか?」
一瞬の沈黙。
それは驚愕ではなく、認識を更新するための間だった。
――そこまでご存じとは。
アチューナルは微かに笑みを浮かべた。
われわれは現在、農業輸出星として知られていますが、連邦崩壊後は惑星サントリーニと、農産物と金属資源の交易によって補完関係を築いてきました。
そして、言葉を重ねる。
――ならば、アスクシオン地区の由来についても、ご存じでしょう。
「いいえ」
ハニス・イザルは率直に答えた。
「それは知りません。ただ……銀河連邦の起源と、この地が深く結びついている、そんな響きを感じます」
アチューナルの視線が、遠い過去へと向けられた。
――今から一万一千年前。
銀河暦初頭の千年期について、ほとんど何も伝わっていない時代がありました。
その闇の中で、エル・ウーターと名乗る“不死の従僕”が、ラムダ・グリスをこのアスクシオンへと、密かに導いたのです。
彼は断言するように続けた。
――ここで、ラムダ・グリスのクロノ・ブルーム(Chrono-Broom)は、完成へと向かいました。
急激にではありません。
しかし、確実に。
アチューナルは自らを振り返るように、言葉を緩めた。
――私は、百年前の第一調律師のように、銀河を巡ることはできません。
ですが今こそ、探索の時代が始まる。
その使命を、次代の第一調律師へ託すべき時なのです。
アーカイヴ(惑星ネオ・エーテル)との確執――
そんな局所的問題に、もはや拘泥している余裕はない。
――銀河復興は、観測と操作の段階を終え、直接的介入の局面へ移ろうとしています。
そして最近、起源譚が、あまりにも急速に解き明かされ始めている。
「反エムー」と名乗る集団が、われわれに干渉し始めたのも、偶然ではないでしょう。
ハニス・イザルは静かに問い返した。
「……アスクシオン地区とは、いったい何なのですか?」
アチューナルは、深く息を吸った。
――正直にお伝えします。
ドーラ・ウェーブ殿からの依頼であり、私自身も、あなたには知る資格があると判断しました。
彼は語る。
――惑星リリナスが銀河の中心となる以前、三十の星から成るシリウシアン集団が存在しました。
その中心星が、惑星レガシア。
そして今は、その聖地こそが、ここアスクシオン地区に移されたのです。
そして、決定的な事実。
――コンシューアムの多くは、彼らの血を受け継いでいます。
ハニス・イザルの胸に、冷たい戦慄が走った。
――ラムダ・グリス没後三百年。
突如としてエムー(Emu)が現れ、銀河を席巻しました。
彼はクロノ・ブルーム・プロセスを停止させた――と、人々は信じました。
だが、とアチューナルは言う。
――その破壊こそが、逆説的に、プロセスの真実を浮かび上がらせたのです。
ドーラ・ウェーブからの依頼。
それは終わりではなく、入口だった。
――最終段階への、入り口です。
ハニス・イザルさん。
あなたが、ミーター(Meter)、オリン・バー(Orin Barr)、そして……もう一者を加えた新たなグループと共に、銀河復興の時代を切り拓いてくださることを、心から願っています。
ハニス・イザルは、思わず声を上げた。
「……ミーターのことまで、あなた方は?」
アチューナルは、ただ頷いた。
ハニス・イザルの表情に、初めて確かな微笑が宿る。
「それなら」
彼は言った。
「航宙船ナディール号と、新時代の探索機能装置を造りつつあるオリン・バーにも、胸を張って持ち帰れる土産ができました」
アスクシオンの沈黙が、わずかに揺れた。
それは、青の世界から、黄色と紫の未来へ――
銀河が、再び動き始めた兆しだった。
(つづく)



コメント