- 敵を欺くには味方から
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍 第6話
Prologue
ラヴェンダーの紫煙が揺らめく丘陵に、ハニスは立ち尽くしていた。風は銀河の記憶を運び、彼の思索を鋭利に研ぎ澄ませる。ネオ・エーテルの興亡、その背後に潜むクロノ・ブルームの影──そして、ヒューが地球から持ち帰った“真実”の意味。
ミーターは静かに接近し、人工虹彩を淡く輝かせた。探偵としての誇りとロボットとしての論理が交錯し、彼は問いを発した。
本編
ミーターの演算は、ラムダ・グリスとレムの時代に二五〇年の隔たりがあることを示していた。しかしハニスは、その隔たりの奥に隠された連関を直感していた。
「ハニスさん、二人の間に何か真実の連関があるのですか?」
ミーターの声は金属の響きを帯びながらも、真摯な探究心を宿していた。
ハニスはベリー文書を思い返す。そこにはこう記されていた。──クロノ・ブルーム学者ならば真相を悟っただろう。しかし悟るのが早すぎて、リック・エフォーラムにとっては都合が悪かった。われわれは学者ではない。霧の中をさまよい、真相を掴めずにいる。それこそがリックの狙いなのだ。
ラヴェンダー畑に立つと、その霧が晴れていくように感じられた。そこに浮かび上がるのは“リーガルの真実”であった。
「リーガル……あのクロノ・ブルーム学者ですか?」
ミーターの虹彩が震える。
「彼とグリスの関係に何かあるのですか?」
ハニスは頷いた。グリスは政治人間として記録されているが、実際にはリーガルのもとでクロノ・ブルームの真髄を叩き込まれた。リーガルは彼を唯一の後継者と見なしていた。
やがてグリスはネオ・エーテルの覇権を築いた。科学技術と宗教という異質な組み合わせで星域を奪取し、銀河全体が原子力を忘却する中でただ一人隆盛を極めた。他の世界は必然的にその技術に依存せざるを得なかった。だが、その巧妙な仕組みも今や機能を失いつつある。
「つまり、リーガルとグリスが最初から筋書きを仕組んでいたと?」
ミーターの問いに、ハニスは静かに答えた。
「その通りだ。残る問題はレムだけだ。」
「レガシーシアの戦い──勝因は精神作用力とされるが、真に決定的だったのは“放射能フィールド抑制機”である。レムはネオ・エーテルの科学技術を嫌悪し、その弱点を的確に突いた。アポリアさんの見解は正しかった。 」
「それでは……レムが正義で、ネオ・エーテルが悪だというのですか?」
ミーターの声は震え、論理の基盤が揺らいでいた。
「何のためにネオ・エーテルは戦ってきたのです? 銀河を復興し正義を打ち立てるためではなかったのですか?」
ハニスは彼を諭すように言った。
「落ち着け、ミーター君。真相究明こそ探偵の本分だろう。」
ミーターは沈黙し、やがて低く呟いた。
「ヒューとリーガルの目論見は深淵すぎます。Qの僕には到底理解できません。」
ハニスは遠くを見つめる。
「レムの存在こそが今まさに問題だ。彼の力の由来を探れば、人類の故郷──最古の惑星世界が見えてくる。それは、ヒューやリーガル、そしてリック・エフォーラムの真意が見えてくるはずだ。そしてさらに、オルビタルの存在、その先に銀河復興がある。ミーター君、焦るな、きっと分かってくる。ユックリと究明してみせるさ!」
Epilogue
ラヴェンダーの紫煙はなおも漂い、銀河の記憶を包み込む。
真実は味方をも欺き、銀河の未来を揺るがす。
その深淵を覗き込む者の虹彩は、静かに震えていた。
──つづく。



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