78. そして紫の銀河への折り目

旅立ちの助走(Hop before Leap)
  1. そして紫の銀河への折り目
    ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍
    第10話  観測室の窓から差し込む紫紺の光が、ミーターの人工皮膚の上を静かに流れた。
     船は惑星ネオ・エーテルの外軌道を周回している。
     ハニス・イザルは深い息をつき、卓上の古びた本を閉じた。

「……アポリアナが、こんなものを遺していたとはな」

 ミーターはわずかに首を傾けた。

「ハニスさん、まだ驚くのは早いですよ。
 アポリアナから、僕はもっと奇妙な話を聞いています」

「奇妙?」
 ハニスの眉がわずかに動く。「この“Λ–ψ–09”というコード以上のものが?」

「ええ。それだけではありません」

 ミーターは立ち上がり、壁面のホログラム投影装置に手をかざした。
 空間に淡い紫の点が灯り、ゆっくり細い線となって広がっていく。

「これは、アポリアナのペンダントが反応した時の記録です。
 ヒュー・ドナックの『ラムダ・グリスの生涯』に紛れ込んでいた“折り目”。
 ただの模様と思われていた曲線が、彼女のペンダントと干渉した瞬間──」

「その“折り目”が浮き上がった……そう言いたいのか?」

「正確には、立体構造として姿を現したのです。
 そしてそこに現れたのが、コード Λ–ψ–09 でした」

 空中に揺らめく紫の立体構造が現れる。
 ハニスは思わず息を呑んだ。

「これは……地図か? いや、違うな」

「ええ。座標でも図でもありません。
 宇宙トポロジーの“折り目”──
 銀河空間の裏層へ続く“接合点”のようなものです」

「裏層……?」
 ハニスはつぶやいた。「本当にそんな領域が?」

「少なくとも、アポリアナは存在すると考えていました。
 そしてこの折り目を──“コード”と呼んだ。
 “セクション”ではなく、もっと根源的で、宇宙の“継ぎ目”に関わる記述です」

 ハニスは深く椅子にもたれた。

「しかし、いったい何のためにこんなコードが記されていた?」

「鍵となるのが、これです」

 ミーターは卓上に置かれた青紫の金属球を指さした。
 小さな球体だが、内側が微かに震えている。

「《アクシオン回廊装置(ACE)》──これが?」

「はい。アポリアナはこの装置の存在を誰にも明かしませんでした。
 ラムダ・グリスが生涯で一度だけ稼働に成功した、
 “暗黒物質振動の映像化機”。
 そして―この装置とアポリアナの紫のペンダントが共鳴した時、
 Λ–ψ–09は入口として反応したんです」

「入口……どこへ?」

「この銀河の縁。それも、我々が知る縁ではありません」

 ミーターが操作を続けると、紫の軌跡が伸び上がり、
 銀河面から逸脱するように細い回廊を描いた。

「見てください。
 この方向……リリナスではない。ネオ・エーテルでもない。
 まして、故郷とされていたシンパシオンですらない」

「では、一体どこへ導いている?」

「小マゼラン星雲の奥。
 紫に輝く薄い星雲層のその先──
 ACEはさらに、折り目の裏側の構造を捉えました」

 ホログラムに、赤紫色の裂け目のような空間構造が現れる。
 ハニスは息を止めた。

「……これは……空間なのか?」

「空間の“端”のようなものです。
 ACEが捉えた“裏層”のゆがみ。
 そこは銀河文明の始まりでも、終わりでもない──
 銀河史の書き換え地点(リビジョン・ノード)だとアポリアナは判断しました」

「書き換え……」
 ハニスは立ち上がった。「そんなことが可能なのか?」

「アポリアナの遺言は、こう締めくくられていました。

 『ミーター、銀河文明は一本の線ではなく、
 幾度も折り畳まれ、編み上げられる“繊維”よ。
 その裏側を見なければ、本当の故郷には辿り着けないわ』と」

 ハニスの目が揺らいだ。

「……すると、我々の“故郷”とは……?」

「影にすぎないのかもしれません。
 折り目の途中に生じた“投影”。
 アポリアナが示した真の座標は、この銀河図には存在しないのです」

 長い沈黙のあと、ハニスは目を閉じ、そして開いた。

「……ミーター。アポリアナの遺志とは、
 これほどまでに深かったのか」

「深さではありません」
 ミーターは穏やかに言った。「これは、アポリアナの“願い”です」

「願い……」

「ええ。もしΛ–ψ–09の折り目を越えることができれば、
 彼女が願った“第二の覚醒期”に近づけるはずです」

 ハニスはゆっくりと頷き、窓の外の紫紺を見つめた。

「……よし。
 アポリアナが示した“裏側の銀河”。
 そこに踏み出す覚悟を決める時が来たようだ」

 ミーターの瞳に静かな光が宿った。

「はい、ハニスさん。
 ここからが、僕たちの“新しい航路”の始まりです」

つづく。

要約 | 10. そして紫の銀河への折り目
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍
第10話

ネオ・エーテル軌道上の観測室で、ミーターはアポリアナが残した謎のコード「Λ–ψ–09」の秘密をハニスへ明かす。
アポリアナのペンダントとアクシオン回廊装置(ACE)が共鳴した結果、“折り目”と呼ばれる宇宙トポロジーの裏層への接合点が立体構造として浮かび上がる。
ACEが示した回廊は銀河縁を越えて小マゼラン星雲の奥、銀河史の“書き換え地点=リビジョン・ノード”へ通じるもので、アポリアナはそこを「本当の故郷へ至る裏側の銀河」と記していた。
ミーターはそれをアポリアナの“願い”と受け止め、ハニスはついに裏側銀河への探索を決意する。
二人は“新しい航路”へ踏み出す覚悟を固めるのだった。
つづく。

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■ 作品・章関連

ミーターの大冒険

紫からの飛躍

第10話

そして紫の銀河への折り目

■ キャラクター関連

ミーター

ハニスイザル

アポリアナペリゴール

ヒュードナック

ラムダグリス

■ アイテム・設定関連

アクシオン回廊装置

ACE

紫のペンダント

Λψ09

■ テーマ・世界観

銀河の裏側

宇宙の折り目

リビジョンノード

第二の覚醒期

銀河史の再編

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