- そして紫の銀河への折り目
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍
第10話 観測室の窓から差し込む紫紺の光が、ミーターの人工皮膚の上を静かに流れた。
船は惑星ネオ・エーテルの外軌道を周回している。
ハニス・イザルは深い息をつき、卓上の古びた本を閉じた。
「……アポリアナが、こんなものを遺していたとはな」
ミーターはわずかに首を傾けた。
「ハニスさん、まだ驚くのは早いですよ。
アポリアナから、僕はもっと奇妙な話を聞いています」
「奇妙?」
ハニスの眉がわずかに動く。「この“Λ–ψ–09”というコード以上のものが?」
「ええ。それだけではありません」
ミーターは立ち上がり、壁面のホログラム投影装置に手をかざした。
空間に淡い紫の点が灯り、ゆっくり細い線となって広がっていく。
「これは、アポリアナのペンダントが反応した時の記録です。
ヒュー・ドナックの『ラムダ・グリスの生涯』に紛れ込んでいた“折り目”。
ただの模様と思われていた曲線が、彼女のペンダントと干渉した瞬間──」
「その“折り目”が浮き上がった……そう言いたいのか?」
「正確には、立体構造として姿を現したのです。
そしてそこに現れたのが、コード Λ–ψ–09 でした」
空中に揺らめく紫の立体構造が現れる。
ハニスは思わず息を呑んだ。
「これは……地図か? いや、違うな」
「ええ。座標でも図でもありません。
宇宙トポロジーの“折り目”──
銀河空間の裏層へ続く“接合点”のようなものです」
「裏層……?」
ハニスはつぶやいた。「本当にそんな領域が?」
「少なくとも、アポリアナは存在すると考えていました。
そしてこの折り目を──“コード”と呼んだ。
“セクション”ではなく、もっと根源的で、宇宙の“継ぎ目”に関わる記述です」
ハニスは深く椅子にもたれた。
「しかし、いったい何のためにこんなコードが記されていた?」
「鍵となるのが、これです」
ミーターは卓上に置かれた青紫の金属球を指さした。
小さな球体だが、内側が微かに震えている。
「《アクシオン回廊装置(ACE)》──これが?」
「はい。アポリアナはこの装置の存在を誰にも明かしませんでした。
ラムダ・グリスが生涯で一度だけ稼働に成功した、
“暗黒物質振動の映像化機”。
そして―この装置とアポリアナの紫のペンダントが共鳴した時、
Λ–ψ–09は入口として反応したんです」
「入口……どこへ?」
「この銀河の縁。それも、我々が知る縁ではありません」
ミーターが操作を続けると、紫の軌跡が伸び上がり、
銀河面から逸脱するように細い回廊を描いた。
「見てください。
この方向……リリナスではない。ネオ・エーテルでもない。
まして、故郷とされていたシンパシオンですらない」
「では、一体どこへ導いている?」
「小マゼラン星雲の奥。
紫に輝く薄い星雲層のその先──
ACEはさらに、折り目の裏側の構造を捉えました」
ホログラムに、赤紫色の裂け目のような空間構造が現れる。
ハニスは息を止めた。
「……これは……空間なのか?」
「空間の“端”のようなものです。
ACEが捉えた“裏層”のゆがみ。
そこは銀河文明の始まりでも、終わりでもない──
銀河史の書き換え地点(リビジョン・ノード)だとアポリアナは判断しました」
「書き換え……」
ハニスは立ち上がった。「そんなことが可能なのか?」
「アポリアナの遺言は、こう締めくくられていました。
『ミーター、銀河文明は一本の線ではなく、
幾度も折り畳まれ、編み上げられる“繊維”よ。
その裏側を見なければ、本当の故郷には辿り着けないわ』と」
ハニスの目が揺らいだ。
「……すると、我々の“故郷”とは……?」
「影にすぎないのかもしれません。
折り目の途中に生じた“投影”。
アポリアナが示した真の座標は、この銀河図には存在しないのです」
長い沈黙のあと、ハニスは目を閉じ、そして開いた。
「……ミーター。アポリアナの遺志とは、
これほどまでに深かったのか」
「深さではありません」
ミーターは穏やかに言った。「これは、アポリアナの“願い”です」
「願い……」
「ええ。もしΛ–ψ–09の折り目を越えることができれば、
彼女が願った“第二の覚醒期”に近づけるはずです」
ハニスはゆっくりと頷き、窓の外の紫紺を見つめた。
「……よし。
アポリアナが示した“裏側の銀河”。
そこに踏み出す覚悟を決める時が来たようだ」
ミーターの瞳に静かな光が宿った。
「はい、ハニスさん。
ここからが、僕たちの“新しい航路”の始まりです」
つづく。
要約 | 10. そして紫の銀河への折り目
ミーターの大冒険 第一部 紫からの飛躍
第10話
ネオ・エーテル軌道上の観測室で、ミーターはアポリアナが残した謎のコード「Λ–ψ–09」の秘密をハニスへ明かす。
アポリアナのペンダントとアクシオン回廊装置(ACE)が共鳴した結果、“折り目”と呼ばれる宇宙トポロジーの裏層への接合点が立体構造として浮かび上がる。
ACEが示した回廊は銀河縁を越えて小マゼラン星雲の奥、銀河史の“書き換え地点=リビジョン・ノード”へ通じるもので、アポリアナはそこを「本当の故郷へ至る裏側の銀河」と記していた。
ミーターはそれをアポリアナの“願い”と受け止め、ハニスはついに裏側銀河への探索を決意する。
二人は“新しい航路”へ踏み出す覚悟を固めるのだった。
つづく。
MieterEkō
HannisIzal
AporianaPerigaul
LambdaGriss
RadiantCube
AxionCorridorEngine
PlanetNeoAether
Sympassion
RevisionNode
PurpleGalaxyFold
MietersGreatAdventure
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■ 作品・章関連
ミーターの大冒険
紫からの飛躍
第10話
そして紫の銀河への折り目
■ キャラクター関連
ミーター
ハニスイザル
アポリアナペリゴール
ヒュードナック
ラムダグリス
■ アイテム・設定関連
アクシオン回廊装置
ACE
紫のペンダント
Λψ09
■ テーマ・世界観



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