- アポリアナの亡骸は?
ミーターの大冒険 第一部 旅立ちの助走
第1話
銀河系を舞台にしたSF小説シリーズ『ミーターの大冒険』。本記事では、第1話「アポリアナの亡骸は?」を全文掲載します。翻訳ロボット・ミーターと、その主人であったアポリアナ・ペリーゴールの最後の瞬間を描き、惑星イオスや惑星エオへと繋がる壮大な銀河冒険の幕開けを体験できます。ラヴェンダー農園に広がる紫の風、ロボットと人間の絆、そして銀河再生の象徴・エオ星への旅立ち、アポリアナの最後の瞬間を描き、惑星イオスや惑星エオへと繋がる壮大な銀河冒険の幕開けを体験できます。ラヴェンダー農園に広がる紫の風、ロボットと人間の絆、そして銀河再生の象徴・エオ星への旅立ち──SFファン必見の導入章です。
さらに、ヒュー・ドナックの500年周期、ロボット文明の再生が交錯する壮大なSF物語を体験してください。
ミーターの大冒険 第一部 Momentum Rise 第1話
第1話は、SF小説シリーズ『ミーターの大冒険』の導入となる物語であり、アポリアナ・ペリーゴールの死、ロボットのミーター、そして惑星エオや惑星イオスへとつながる銀河的スケールの出来事が静かに動き始める“起点”の話です。
アポリアナ・ペリーゴールが八十一歳で亡くなった報せは、ラヴェンダー農園全体を深い陰影で包み込んだ。
全銀河社会でも稀有な香料源として知られるこの農園は、惑星地表の風向きに沿って紫の波が絶えず流れ、アポリアナの館を淡く照らしていた。彼女に仕えてきた翻訳・通訳ロボット──ミーター・エコウにとって、この場所は“主人と歩んだ歴史そのもの”でもあった。
その訃報を聞きつけ、二人の来訪者が急ぎ館へ向かった。
一人は銀河ジャーナリストとして名を知られるハニス・イザール。
もう一人は足の不自由な老人、オリン・バーである。
イザールは彼を背負い、ラヴェンダー畑の丘陵を駆け上がってきたのだろう。館に辿り着くと、力尽きるように石床へ倒れ込んだ。
「 . . . 一瞬、遅かったみたいだな、ミーター君。悪い。オリンさんの足のせいでな」
「ハニスさん . . . それにオリンさんまで来てくださったのですね」
ミーターの人工声帯から発せられる声は、ロボットでありながらも深い哀惜を帯びていた。
「ミーター君、これから一人ぼっちで辛いな . . . 」
イザールは呼吸を整えながら言った。「アポリアナさんは、最後に何か言っていたかい?」
「はい。たくさん言い残されました。オリンさんの世話を続けるように。困ったらイザールさんを頼れと。そして . . . 僕への別れの言葉を」
ミーターは視線を落とした。「後ほど、すべてお話しします」
ラヴェンダーの香りが、静かに三人の間を渡っていく。銀河的規模の事件にも似た深い静寂が、室内を満たしていた。
「ところで、アポリアナさんの亡骸をどうする?」
イザールは館の奥を見やりながら言った。「歴代の女性先祖が眠る“ラヴェンダーのみはらしの丘”か? それとも、惑星伝承にある“リセル岬の洞窟”か?」
「どちらでもありません」
ミーターははっきりと答えた。
「初めは、ラヴェンダーの丘を望まれていました。ですが . . . 突然、考えを変えられたのです。亡骸は惑星イオスへ運び、さらに惑星エオへ向かう船に乗せてほしい──そう言われました」
「惑星イオス . . . そしてエオ、か」
「はい。まもなくイオス星からドースさんが到着します。クォンタム・フロスト仕様のラヴェンダー・エキスを、惑星ネオ・エーテルから惑星エオへ運ぶ便があり、アポリアナはその船に同乗したいと」
イザールは腕を組み、目を細めた。
「ふむ . . . エオ星へ、ね。銀河再生の象徴のような星だ。さもありなん」
「イザールさん、その“再生”とは . . . ?」
「“有限とは、弱さと優しさに包まれた無限”──エオ星の標語だよ」
イザールは淡く笑った。「ロボット文明の再興にも関わる、と噂されている」
「ロボット文明 . . . ? どうしてそんなことまで . . . 」
「ミーター君。“クロノ・ブルームの五百年”が近いからさ」
クロノ・ブルーム。
銀河歴史家やSF研究者なら一度は聞いたことのある、文明周期転換の概念。五百年周期で訪れる“進化の花開く瞬間”──そう形容されることもある。
「そして俺はね、ジョナサン・ウェーバー──あの鬼才ジャーナリストの弟子を自認している男だ。銀河の裏側の情報くらい、多少は掴んでるのさ。まあ、なんちゃってだけどな!」
イザールの茶化すような笑いとは裏腹に、ラヴェンダー畑を渡る風には、確かに何かが始まりつつある気配があった。
アポリアナの死を起点に、ミーター(・エコウ)と惑星エオを結ぶ“新しい銀河史”が、静かに幕を開けようとしていた。



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