
『ミーターの大冒険』
第一部 プロローグ
第1話 アルカディアの亡骸は?
アルカディア・ダレル、享年八十一。
惑星ターミナスにあるラヴェンダー農園の館で、その生涯を静かに閉じた。
彼女と人生を共に歩んだのは、翻訳・通訳ロボットのミーター。弟のように、時に友人として、彼女の傍らに寄り添ってきた存在だ。
訃報を受けて最初に駆けつけたのは、やり手記者のジスカルド・ハニスと、足の不自由な技術者オリンサス・ダムだった。ミーターは彼らを出迎え、アルカディアの最期の言葉を静かに語りはじめる。
そして、問題となるのはその「亡骸をどこへ送るか」ということ。
先祖たちの眠る「ラヴェンダーの丘」か、神秘的な「ベリス岬の洞窟」か—。
だが、ミーターが明かしたのは、まったく別の場所、「惑星イオス」だった。
その選択の意味とは?
そして、ハニスが口にした「ガールの五百年」とは何を指すのか?
すべての始まりは、一本のラヴェンダーの茎のそばからだった。
エピソード69 本編
ラヴェンダー農園の中央に建つ館は、どこか永遠に時を止めたような静寂に包まれていた。
重くきしむ玄関のドアが開き、ミーターが出迎えに出たそのとき、床にへたり込んだハニスの姿が目に入った。彼の背には、やせ細った身体のオリンサス・ダム。どちらも息を切らし、だが目には明確な使命の色があった。
「ハニス、一瞬、遅かったみたいだな、ミーター君!すまん。オリンサスさんの足のせいでな」
「ハニスさん!それにオリンサスさんまで!」
ミーターは感情の抑制を緩め、声を震わせた。
「ミーター君、これから一人ボッチで辛いなあ!」
ハニスは帽子を脱ぎ、アルカディアのために黙祷を捧げた。
「アルカディアさんは、最後に何か言ってたかい?」
「はい。たくさん言ってました。オリンサスさんのことを頼むとか、ハニスさんに甘えるようにとか . . . 。あとで、ゆっくり全部お話します」
静かな間をおいて、ハニスは声を潜めた。
「ところで . . . 彼女の亡骸をどうする? ラヴェンダーの見晴らしの丘に? それともベリス岬の洞窟か?」
だが、ミーターは首を横に振った。
「どちらでもありません。最初は母君たちと同じ『ラヴェンダーの丘』にと話していたのですが、最後に考えを変えました。—惑星イオスに運んでほしい、と」
「惑星イオス . . . ?」
ハニスの表情がわずかに変わった。
「もうじき、惑星イオスからドースさんが来ます。ポニェッツ仕様のラヴェンダー・エキスを積んで、この場所から貨物宙航船で惑星イオスへ運びます。その船に、アルカディアを乗せてほしいと」
「 . . . ふむ。イオス星へ、ねえ。さもありなん」
ハニスの声がどこか詩的な響きを帯びた。
「“有限とは、弱さと優しさに包まれた無限”……つまり“再生”。」
「え? それは何ですか?」
「惑星イオスの標語だよ。データ収集はジャーナリストの本分だからな。ここだけの話だが、惑星イオスといえば—ロボットだ」
「ハニスさん、なぜそんなことまで . . . 僕と同じロボットが、そこに?」
ミーターの声が、ほんのわずか震えた。
「まあ、つまりはもうじき『ガールの五百年』が来る、ということよ。俺はな、ミーター君、あの鬼才ジャーナリスト、ジョウル・ターバーの弟子を自負してるんだ。なんちゃって、だけどね!」
その瞬間、ラヴェンダーの風がそっと吹き抜けた。
静寂が戻る館の中に、何か新しい運命が芽生えはじめていた—。
次話につづく . . .
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