ミュータント

フォウンデーションの夢

ミュータント

二万年後の銀河シリーズ
第1弾
ファウンデーションの夢

第6部 ベイタ・ダレル
第5話 ミュータント
エピソード 38

ベイタ・マロウは、銀河の片隅にある荒れ果てたガール・ドーニックの農園へと再び戻ってきた。そこはかつての栄光をすっかり失い、朽ち果てた屋敷だけが残っていた。しかし、彼女の目的は地上にあったわけではない。彼女は屋敷の地下深くに隠された「故郷星探査報告書」を見つけるために来ていた。

地下に続く古い階段を慎重に降りると、暗闇の中に並ぶ書類の山が目に入った。埃が積もり、かつての探求心に燃えた人物たちの痕跡がそこに眠っている。ベイタは一つの古びた箱を手に取り、中に入った古い書類をそっと取り出した。彼女の指がページをめくる度に、時代を超えた秘密が現れた。そこには、ガール・ドーニックがファウンデーション設立当時に担った秘密の任務が記録されていた。

「これが…」ベイタは呟き、ページをさらにめくる。「後にアルカディアがジスカルド・ハニスから譲り受けた報告書の元なのね。」

彼女は報告書を慎重に箱に戻すと、静かに地下から出てきた。

時代は変わり、ターミナスのかつての繁栄は、インドバー家の世襲政権のもとで色褪せつつあった。だが、その暗雲に気づいている者も少なからずいた。心理学者エブリング・ミス、貿易商人ランデュ・ダレル、そしてベイタ・マロウ。彼らは何かが変わりつつあることを感じ取っていた。

ベイタは、ターミナスの古い街並みを抜け、ミスの住まいへと向かった。彼の家は時間と共にすっかり古び、窓から見える景色は荒れ果てていた。彼女は軽く扉をノックすると、静かに中に入った。

「私は、ベイタ・マロウです。ミスさんに急なお話がありまして参りました。」彼女の声が静かに部屋の中に響いた。

エブリング・ミスは、驚いたように顔を上げた。彼の目は一瞬、ベイタの若さと美しさに驚きを見せたが、すぐに穏やかな笑顔に変わった。

「これは驚きました。こんなぼろやに、よくぞお越しくださいました。もっと堅苦しい方だと思っていましたが、若くて美しいお出ましとは、我が家には少々不似合いかもしれませんね。お座りください。少々散らかっておりますが、どうぞ。」

ベイタは微笑み、慎重に椅子に腰を下ろした。彼女の目は部屋中に積み上げられた書物や資料を一瞬眺めたが、すぐに本題に入った。

「実は、誰にも話せない事実をお伝えに参りました。母には内緒でお伺いしました。ドーニックの館が我が家の所有だということはご存知でしょうけど、私はドーニックの直筆の手紙を所持しています。それが、ミスさんにとっても興味深い内容かもしれないと思いまして。」

ミスの表情が少し硬くなった。「ハリ・セルダン宛の手紙、それは珍しいものですね。その写しでしょうか?」

「ええ、その通りです。」ベイタは慎重に答えた。「心理歴史学は全体の帰趨を扱う学問であり、個々人の行動はそれに結びつかないというのが一般的な見解でしょう。でも、この手紙は違うのです。セルダンは、個別の行動にも注目していたようなのです。」

ベイタはさらに話を続けた。ガール・ドーニックが故郷星から銀河への移民を行った「スペーサーワールド」と呼ばれる五十数個の惑星について調査したこと、そしてオーロラ星で「R」と呼ばれる存在に代わる番犬の群れを発見したことを話した。また、ソラリア星では医学の過度の発展により奇形した、両性具有の人間が存在していたことも。

ミスは無表情でそれを聞いていたが、やがて静かに口を開いた。

「それがどうしたと言うのですか?私の研究には関係がないと思いますがね。」

ベイタは少し苛立ちを感じながらも、冷静に反論した。「関係がないとお思いですか?心理歴史学では、奇形や突然変異体が全体の構成に与える影響を考慮していないのですか?」

ミスは笑みを浮かべ、首を振った。「論外ですね。セルダンやドーニック、アルーリンの学説をくまなく調べても、そんなものはどこにも見当たりません。私が問題にしているのは、第二ファウンデーションの存在だけです。お嬢さん、専門家でない人がとやかく言うべきではありません。」

その言葉にベイタは失望しながらも、さらに追及を続けた。「最近、ターミナスでは第二ファウンデーションの話は聞かれなくなっていますが、他のターミナス所属の星々では、セルダンの誕生日が祝われ、第二ファウンデーションの存在も真実として語られているのです。あなたはそれをご存じないのですね?」

ミスはしばらく黙っていたが、やがて深いため息をついた。「まあ、そうかもしれませんね。しかし、私は私の研究に集中しなければなりません。ベイタさん、あなたの話には興味深い点もありますが、私は今、それにかかずらっている時間がないのです。」

ベイタは、少し残念そうな表情を浮かべたが、それ以上の追及はしなかった。そして、静かに席を立ち、部屋を後にした。

彼女の心には、まだ疑問が残っていたが、今はそれを考える余裕はなかった。次なる冒険が彼女を待っている。


次話『第6話 エピソード39 白とピンクの星』をおたのしみに。

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