第9話 パークサイド
第三部 ウォンダとガールの地球探訪
再生の命――そんなものが、この地球にまだ宿っているのだろうか。
ウォンダが掬い上げた泉の水は、三つのシリンダー・ペンダントに分けられた。透明、紫、黄色。紫のシリンダーは、ターミナスに避難している彼女の妹ベリスへ届けるよう、ウォンダはガールに頼んだ。
「このメモは公には出ないであろう。しかし聡明な我が娘ドースはこれを見つけ出すかも知れないが、どうしても書いておかなくてはならない。両方を知っているのは人間では私一人なのだから。」
──『父ガールのメモ書き(ドース・ドーニックによる)』
三人は別れた。セルダン先生も、残された時間はあと二年ほどしかないだろう。
モーヴの町には仕事が山積していた。国会議事堂や行政機関、公園を完成させたばかりで、何よりも図書館は丁寧に、かつ豪勢に建設しなければならなかった。なにしろ、ターミナスの存在は公には、銀河帝国の歴史全体を網羅する辞書編纂の一部としてしか知られていない。その名は「百科辞書編纂ファウンデーション」。
仕事を早めに切り上げ、自宅へ向かう途中、公園の側を歩いていた。萌葱色の霧雨が大地を包み、すべてが霞んでいた。公園の小さな谷間からは泉のせせらぎがかすかに聞こえ、鳥のさえずりが静かに響く。森の木々は瑞々しい緑に染まり、大空には虹がかかっていた。
その虹を見上げる一人の少女がいた。物思いに沈み、どこか憂いを帯びた表情。思わず、誰かに呼びかけそうになった――「ウォンダ」と。
彼の脳裏に浮かんだのは、小さな島でクローヴァーを摘んでいたウォンダの姿だった。だが視線を斜め下に戻すと、その姿はすでに消え去っていた。
地球の再生は、まだ始まったばかりのように思えた。
――次話につづく。



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