第7話 地球は一つの生命体 第四部 ウオンダとガールの地球探訪
「地球に命がある、と本当に信じているだろうか?
話の上でみんなが言えば言うほど、呆れてくるのは私だけなのかもしれない。
様々な証拠をつきつけられようとも、人の心はそう簡単に利己主義の殻から抜け出せない。
例えば地球が何十億年にも亘って酸素濃度を20%に維持してきたと言っても、心の底から驚嘆し畏敬の念を抱く人がどれだけいるだろうか。」
――『ジョン・ナックの歴史思想書』
その言葉が、船内の静寂を切り裂くように脳裏に響いていた。
闇の宇宙を進む航宙船。冷たい虚空に浮かぶ無数の星々を背景に、操縦席の少女が小さく笑みをこぼす。
「私は、ウォンダ・セルダン。あの禿ジジイの孫。血は繋がっていませんけどね。これからヒューミンおじさんのご依頼にお答えするために地球に向かってるわ。ご心配なく。この船は完全制御よ。」
突然の宣言に、隣の青年ガールは目を見開いた。
「何だって?その依頼というのは?僕はなんにも聞いていないし、承諾もしていない。冒険は好きだけど、狂ってる!」
ウォンダは肩を竦め、半ば楽しげに首を振る。
「私も詳しくはなにも聞いていないの。ただ、ヒューミンおじさんが地球でこの前、何かを発見したらしいのよ。ある星をつくっているお仲間が、とある報告をしたそうだわ。ヒューミンさんが受けたその光の放射は、『心』を持っていたとしか考えられなくて . . . その場所が地球の目じゃないか、というのよ。」
ガールの胸に不安と好奇心がせめぎ合う。ウォンダの声は熱を帯び、言葉がさらに加速する。
「そしてヒューミンさんが光を受けてから、その場所から水が湧いてきて、真ん中に島が出来て、木が生えてきたというの。私もワクワクよ。なんか、人間でなくては本当の感応ができない、とか言ってましたけど! それを体で感じて貰いたい、と言ってたわ!」
星の光が船窓を流れる。広大な宇宙に閉じ込められた沈黙の中、ガールは呻くように声を絞り出した。
「地球だって?! 君の言ってること、ゆっくり説明してくれないと、僕の頭は全然整理されないんだけど . . . なんで、僕が地球とやらにいかなくちゃならないのか? それに君って、いったい何なんだ?」
その問いに、ウォンダは答えなかった。代わりに微笑を浮かべ、操縦桿を軽く叩いた。船は漆黒の宙を、さらに深く切り裂いていく。
――次話につづく。



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