30. 銀河の手紙

Tea Tree
  1.  銀河の手紙
    第五部 Tea Tree ファウンデーションの夢  アルカディアへ。
     お母さん、ターミナスでの暮らしはお元気ですか。ポニェッツさんには時々お会いになっていますか?  こちらスミルノでは、私の夫――バイロン・ファレルが相変わらず元気いっぱいです。あの人、最初は本当に生意気で、鼻持ちならないところもあったんですよ。でも今では、自慢の夫としか言いようがありません。ファウンデーション宇宙軍のパイロットとして再び艦隊に復帰し、船の修理にかけては銀河随一の腕を誇っています。三つ星と宇宙船の徽章に、まるで魂を刻み込んでいるかのようです。  彼の先祖は、馬の首星団の暗黒星雲近くにあるネフェロス星の最高貴族だそうですが、それを鼻にかけることはありません。むしろ、今ではすっかり古典学者の顔つきになり、セフ・サーマックの独裁残党や宇宙海賊を掃討したあと、スミルノの古代寺院で発見した古書に心を奪われているのです。  毎晩、夕食のあと、彼は本に書かれた言葉を暗唱し、私に語って聞かせます。最初は新鮮で胸が高鳴ったのに、一ヶ月もすると私まで覚えてしまって . . . 今ではその朗唱が呪文のように聞こえ、彼が口を開くと眠気に襲われてしまうのです。お母さん、どうしましょう。けれど、そんな彼を私は心から愛しています。恥ずかしいくらいに。  バイロンは言います――「ファウンデーションは次の時代に進まねばならない」と。
     これまで銀河の衰退を抑えてきたのは原子力でしたが、それだけでは復興は成し遂げられない。なぜなら、銀河を衰亡へと導いた元凶は、人類が驕り高ぶり、科学技術を誤用したことにあったから。混沌はそこから生まれたのだ、と。  彼が写した古文書を同封します。どうかポニェッツさんにも読んでいただけませんか。

添付文書:『ジョン・ナックの歴史思想書』より

 人類の進歩とは、遺伝子にあらかじめ刻まれた「自滅を前提としたもがき」という装置なしには機能しない。あらゆる現象に限界点――例えば水が100℃で蒸発するように、文化にも沸点が存在する。

 ニフ人もそれを幾度となく経験した。二十一世紀初頭の「コロナ大禍」における政府の迷走は、驚愕を通り越し、悲哀に至るものだった。だが、最大の誤謬は「フクシマ原発事故」に如実に表れた。

 再使用燃料棒の処置、放射能を含む汚染水の海洋投棄、メルトダウン炉心の廃絶策――そのいずれも解決不能とされ、覆い隠された。誰も責任を取ろうとはせず、むしろ互いに押し付け合った。

 百年を経ても総括はなされず、その怠慢こそが「ニフ文化の沸点」の始まりだったのだ。
 ニフ文明が滅亡するのか、それとも羽化し新たな段階に至るのか――それは我らの覚悟にかかっている。

 アルカディア、これが私たちの現在地です。
 続きはまた書きます。

(つづく)

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