- 女性Rの機能停止
ファウンデーションの夢
第六部 ベイタ・ダレル
第12話 女性Rの機能停止
惑星トランターの古い研究棟、その一室。埃を被った装置と壁際の図書端末が静寂を守る中で、ベイタ・ダレルは震える手で原子銃を構えていた。彼女の視線の先には、かつて道化師マグニフィコと名乗った男―正体を露わにした《ミュール》が立っていた。
扉の向こうから駆けつけてきたトラン・ダレルが、荒々しく叫んだ。
「ベイタ、大丈夫か? 君が撃つ前に、ヴェナさんが撃った。その原子銃、よこしなさい!」
しかし、ベイタは銃を離さず、声を振り絞って言った。
「トラン、わからないの? このマグニフィコ、ミュールなのよ! ミスさんは私の話を、聞いてくれなかった。そして、第二ファウンデーションの居場所をボボーミュールがいる前で話そうとしたのよ!」
彼女は銃口を向けたまま、一歩踏み出した。
「ボボ、いいえ . . . ミュール。はっきり言いなさい!」
ミュールは、観念したように頷いた。
「ああ、その通りだ。ベイタ、最後の最後で、君に負けた。認めるよ。もう少しで、この銀河をp手に入れられたのに . . . 一女性にどんでん返しを受けた。敗北だ。」
彼の目はどこか遠くを見つめていた。
「第二ファウンデーションの居場所さえわかれば、私の銀河支配も完成する寸前だった。だが . . . はっきり言おう。ベイタ、君にだけ、生まれて初めて異性を感じた。人間としての誇り、愛、希望を感じた。」
その声に、ベイタの指先がわずかに揺れた。
「君だけが私を一個の命として認めてくれた。だから心を許し、私は君にだけには感情操作をしなかった。私が一個の人間として自覚した瞬間、皮肉にも、宇宙の支配者から転げ落ちた。しかし、命ある限り、私は挑戦する。」
彼は背を向け、扉の向こうへと歩き出した。
「プリッチャー大尉が待っている宇宙船にこれから行く。ダゼンダ――星界の涯が第二ファウンデーションだという話がある。」
その言葉を最後に、ミュールは消えた。
部屋の隅でうずくまっていたヴェナ・ビリが、重い身体を起こしながら、ベイタに微笑みかけた。その顔には、長く秘めてきた真実の痛みがにじんでいた。
「私はドースよ。かわいいベイタちゃん . . . あなたには人を殺させるわけにはいかなかったの。」
ベイタが息を呑む。ヴェナはゆっくりと語り続けた。
「センターさんに頼まれて、トランターにやって来たのよ。あなたにこんなに苦労をかけたのには、理由があるの。ごめんなさいね。でも、分かるでしょう?」
ヴェナの瞳に浮かぶ涙は、心の奥底からの叫びのようだった。
「あなたが真実を知ったということが、大事だった。そして、あなたが言うことを誰も信じようとしないように仕向けたのも . . . 私なの。そう干渉したの。そうしないと、すべてミュールの思う壺だった。」
その手が、震えながらベイタの頬に触れる。
「セルダンの意志を実現しなくてはならなかった。私はハリを愛した。そして、自分の子じゃなかったレイチを慈しんだ。そしてあなたに至る子孫のみんなをも . . . ね。」
その声は、もはや機械の芯まで届く哀しみに包まれていた。
「どうしてもミュールには第二ファウンデーションの居場所を隠さなくてはならなかった。そうでないと、この銀河には希望と命が消えてしまう。」
ヴェナ・ビリ、あるいはR・ドースは、最後の力を振り絞って言った。
「もう一度、銀河を蘇らせたい . . . 私は人間を死なせたから、もうすぐ機能停止するわ。でも、悲しまなくていいの . . . 」
その瞬間、彼女の目がふっと閉じ、静かに機能を止めた。
部屋にはただ、ベイタの嗚咽だけが残された。
次話につづく . . .
【AI×人間愛】をテーマにした学びセット
商品名: 《セルダン・プラン思考講座》
内容:
🧠 人間心理とAI倫理のオンライン講座(UdemyやCoursera提携リンク)
📘 AI文学・哲学書(例:『AI2041』『ロボットは東大に入れるか』)
🪞 自己内省ノート(「人間らしさとは?」を書くワークブック)
キャッチコピー:
「ハリ・セルダンの計画は、いま私たちの中で進行している。」




コメント