45. 女性Rの機能停止

ベイタ・ダレル
  1. 女性Rの機能停止

ファウンデーションの夢

第六部 ベイタ・ダレル
第12話 女性Rの機能停止

惑星トランターの古い研究棟、その一室。埃を被った装置と壁際の図書端末が静寂を守る中で、ベイタ・ダレルは震える手で原子銃を構えていた。彼女の視線の先には、かつて道化師マグニフィコと名乗った男―正体を露わにした《ミュール》が立っていた。

扉の向こうから駆けつけてきたトラン・ダレルが、荒々しく叫んだ。

「ベイタ、大丈夫か? 君が撃つ前に、ヴェナさんが撃った。その原子銃、よこしなさい!」

しかし、ベイタは銃を離さず、声を振り絞って言った。

「トラン、わからないの? このマグニフィコ、ミュールなのよ! ミスさんは私の話を、聞いてくれなかった。そして、第二ファウンデーションの居場所をボボーミュールがいる前で話そうとしたのよ!」

彼女は銃口を向けたまま、一歩踏み出した。

「ボボ、いいえ . . . ミュール。はっきり言いなさい!」

ミュールは、観念したように頷いた。

「ああ、その通りだ。ベイタ、最後の最後で、君に負けた。認めるよ。もう少しで、この銀河をp手に入れられたのに . . . 一女性にどんでん返しを受けた。敗北だ。」

彼の目はどこか遠くを見つめていた。

「第二ファウンデーションの居場所さえわかれば、私の銀河支配も完成する寸前だった。だが . . . はっきり言おう。ベイタ、君にだけ、生まれて初めて異性を感じた。人間としての誇り、愛、希望を感じた。」

その声に、ベイタの指先がわずかに揺れた。

「君だけが私を一個の命として認めてくれた。だから心を許し、私は君にだけには感情操作をしなかった。私が一個の人間として自覚した瞬間、皮肉にも、宇宙の支配者から転げ落ちた。しかし、命ある限り、私は挑戦する。」

彼は背を向け、扉の向こうへと歩き出した。

「プリッチャー大尉が待っている宇宙船にこれから行く。ダゼンダ――星界の涯が第二ファウンデーションだという話がある。」

その言葉を最後に、ミュールは消えた。

部屋の隅でうずくまっていたヴェナ・ビリが、重い身体を起こしながら、ベイタに微笑みかけた。その顔には、長く秘めてきた真実の痛みがにじんでいた。

「私はドースよ。かわいいベイタちゃん . . . あなたには人を殺させるわけにはいかなかったの。」

ベイタが息を呑む。ヴェナはゆっくりと語り続けた。

「センターさんに頼まれて、トランターにやって来たのよ。あなたにこんなに苦労をかけたのには、理由があるの。ごめんなさいね。でも、分かるでしょう?」

ヴェナの瞳に浮かぶ涙は、心の奥底からの叫びのようだった。

「あなたが真実を知ったということが、大事だった。そして、あなたが言うことを誰も信じようとしないように仕向けたのも . . . 私なの。そう干渉したの。そうしないと、すべてミュールの思う壺だった。」

その手が、震えながらベイタの頬に触れる。

「セルダンの意志を実現しなくてはならなかった。私はハリを愛した。そして、自分の子じゃなかったレイチを慈しんだ。そしてあなたに至る子孫のみんなをも . . . ね。」

その声は、もはや機械の芯まで届く哀しみに包まれていた。

「どうしてもミュールには第二ファウンデーションの居場所を隠さなくてはならなかった。そうでないと、この銀河には希望と命が消えてしまう。」

ヴェナ・ビリ、あるいはR・ドースは、最後の力を振り絞って言った。

「もう一度、銀河を蘇らせたい . . . 私は人間を死なせたから、もうすぐ機能停止するわ。でも、悲しまなくていいの . . . 」

その瞬間、彼女の目がふっと閉じ、静かに機能を止めた。

部屋にはただ、ベイタの嗚咽だけが残された。

次話につづく . . .

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