自惚れ殿下

アルカディア・ダレル

「自惚れ閣下」

ステッティン卿は自らの執務室で書類を整理していた。重厚な扉が静かに開き、装飾の施されたカーペットに軽やかな足音が響く。その音に顔を上げた彼は、不機嫌そうに眉を寄せた。

「カリア! また勝手に入ってきたな!」と怒声が飛ぶ。「何度も言っただろう。わしの執務室は勝手に入るなと。それに、わしの話は国家機密だ。聞いてどうするつもりだ?」

ステッティンの前に立つカリアは気まずそうに微笑みながらも、少しも怯える様子はない。

「ごめんなさい、プーチー。入り口の警備兵が敬礼して通してくれたのよ。それに、来賓がいらっしゃるんですって。ファウンデーションから来た、可愛らしい女の子よ。アルカディアちゃんって言うんですってね。後で会わせてね。楽しみだわ!」

「カリア、いつも言っているだろう。」ステッティンは低い声で威圧感を放つ。「人前で『プーチー』なんて呼ぶなと言ったはずだ。わしにはれっきとした称号がある。銀河連邦第一市民、ステッティン卿だ。『閣下』と呼べ!」

カリアはため息交じりに頷き、「わかりましたよ、プーチー。いえ、閣下。」と皮肉を込めて言った。

「わかったら、さっさと出て行け。今はレヴ・メイルス第一大臣と重要な話をしているところだ。」

カリアが立ち去るのを見届けると、ステッティンは再び執務机に向かい、声を潜めてメイルスに話しかけた。

「メイルス、どう思う? とんだ鴨が葱を背負って舞い込んできたようなものだ。あのアルカディアとかいう娘、諜報部のハン・プリッチャー将軍から昔聞いた話を思い出すな。彼がこう言っていた――『ミュール様はもう少し寿命があれば、銀河全土を支配できた。だが、一つ足りなかった。あのベイタ・ダレルさえ手中に収めていれば!』と。」

ステッティンは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。「だが、今回は違う。あのベイタの孫娘がここにいる。名門ダレル家の血筋、ハーディンやマロウの子孫だ。そいつをわしの妻に迎えればどうだ? ミュールが成し得なかった夢を、わしが叶えられるかもしれん。銀河の支配者となるのだ!」

彼の言葉にメイルスは慎重な口調で応じた。「閣下、先代ミュール様は普通の人間ではありませんでした。軽率な行動は禁物です。それに、第二ファウンデーションの所在さえ判明しない以上、状況は不確実です。ただ、試みる価値がないとも言えません。」

「やってみるさ。」ステッティンの笑い声が部屋中に響き渡る。「ファウンデーションを再び叩き潰すのだ!」

その時、カリアの声が再び響いた。「プーチー、あなたって、私をただの愛人のまま放っておくつもりなの? 本当に悔しいわ!」

「カリア!」ステッティンは怒りをあらわに振り返った。「まだそこにいたのか? 出て行けと言っただろう!」

カリアは不機嫌そうに扉を閉め、去っていった。その後ろ姿を見送りながら、メイルスは小さくため息をついた。

「閣下、自惚れが過ぎないことを願いますよ。」

次話につづく . . .

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