深夜、窓を叩く音がする

アルカディア・ダレル

ファウンデーションの夢
第七部
アルカディア・ダレル

第2話 深夜、窓を叩く音がする
エピソード 48

Date:ファウンデーション暦376年
Place:惑星ターミナス、首都モーヴ市の郊外

ターミナスの夜は静寂に包まれていた。広大なダレル家の邸宅の一室、アルカディア・ダレルは机に向かい、紙の上を走るペンの音だけが響いていた。
机の上には同級生オリンサス・ダムからくすねた盗聴装置付き作文・翻訳機が置かれていた。彼女はたまに窓外に視える流星に因んで「ミーター」と名付けた。彼の姓はここターミナスでは有名な人物「マロウ」を実家にもつ彼女の尊敬するお婆さんの姓。(この翻訳機はどうしたわけか後に変化・生成していく。)

「行くわね、ミーター!」
アルカディアが突然立ち上がり、笑みを浮かべながら宣言した。
「しめしめ、同級生のオリンサス・ダムをデートに誘ったら、特殊盗聴機を作ってくれたわ。これでお父さんたちの密談を傍受できるってことよ!夜な夜なの会合なんて、普通じゃないもの。」

ミーターは眉一つ動かさず、控えめに応えた。
「アルカディアお嬢ちゃま、それはまた大胆な計画ですね。」

「お嬢ちゃまはやめて、アルカディーと呼んでってば!」アルカディアはやや不満げに言いながら机に戻った。

彼女は手元の紙に目を落としながら話を続けた。
「それにしても、このあいだの作文、学校でボツにされたのが本当に悔しいの。理由が馬鹿げているんだから!名門ダレル家のご令嬢の作文としては、国家秘密に指定しなきゃならないほど優等すぎるって言うのよ!一体どういうこと?」

ミーターは慎重に答えた。
「アルカディー、あなたの文章は確かにユニークですが、私から見ても纏めようのない独り言のような部分があります。」

アルカディアはペンを置いてミーターを睨みつけた。
「私の独り言が纏めようがない?ミーター、あなたって本当に皮肉屋なんだから。」

そんな時だった。突然、窓から「トントントン」と小さな音が響いた。

「何?」アルカディアが顔を上げる。
ミーターは即座に警戒態勢に入った。
「アルカディー、窓を叩く音がします。」

「そんなの知ってるわよ。」アルカディアは眉をひそめて、ペンを握り直した。「でも、深夜に窓を叩くなんて、怪しいことこの上ないわ。」

「ごめんください。」
窓の外から、男の声が響いた。

アルカディアが窓越しに覗き込むと、そこには若い男が立っていた。青白い月明かりが彼の顔を照らしている。
「僕はペレアス・アンソーアと申します。決して怪しい者ではありません。窓を開けていただけませんか?」

アルカディアは腕を組み、不機嫌そうに言い放った。
「怪しくない?深夜に二階の窓を叩いてるのよ。泥棒でもそんなことしないわ。」

ペレアスは困ったように笑みを浮かべた。
「いやいや、違うんです。本当に用事があって . . . 」

「用事なら玄関でブザーを鳴らせばいいでしょう。でも今は誰も応対しないわよ。お手伝いさんは留守だし、父は多分地下室で秘密の会合中。」

ペレアスは一瞬言葉に詰まったが、意を決して言った。
「実は、あなたのお父上と話したいことがあるんです。お願いです、窓を開けてください。」

「お願いされても無理なものは無理!」アルカディアはきっぱりと言い放つと、背を向けた。「私は忙しいのよ、あなたに構ってる暇なんてないの!」

ミーターは静かに彼女を見つめていたが、やがて彼自身のAI的直感で、ペレアスが単なる侵入者ではないことを察知した。

「アルカディー、彼を一度話させてみるのも悪くないかもしれませんよ。」

「ミーター、あなたまで何言ってるの?」

その時、ペレアスが窓越しに口を開いた。
「アルカディア・ダレル、あなたは何か大きな運命を背負っている。僕はそれを伝えに来たんです。」

その言葉にアルカディアは動きを止めた。彼女はゆっくりと振り返り、窓の向こうの男を見つめた。

「運命?」

静寂が部屋に満ちる中、アルカディアは自分の心に湧き上がる奇妙な予感を感じていた。

次話につづく . . .

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