二人の全権大使

アルカディア・ダレル

二人の全権大使
エピソード56

第七部 アルカディア・ダレル

第10話 二人の全権大使

 スペースポートの滑走路に、祝いの旗と無数のホバー・デコレーションがはためいていた。高く打ち上がったホログラムのアーチが、五重の祝賀を映し出す。

 戦勝記念、ファウンデーション創立記念、ドーニックの誕生日、アルカディア・ダレルの十五歳の誕生祝い、そして—トランター全権大使の歓迎祝賀会。

 その中心にいたのは、ターバー・ユニスだった。旧知の少女—いや、今や銀河を動かした使節であるアルカディアに向かって、彼は両腕を広げた。

「アルカディア、お帰り!」
 彼は笑いながら言った。「いや、トランター全権大使、ダレル嬢。お陰で、ファウンデーションは全面勝利をおさめたよ。ご覧のとおり、銀河史上最大のパレードになったのも当然だ!」

 アルカディアは目を輝かせながら辺りを見渡した。「ターバーさん。他のみんなは?」

「君のお父さんとセミック博士は、恥ずかしがって来なかったよ」ターバーは苦笑いを浮かべた。「でもマンは、ダゼンダからそろそろ到着するはずだ。ちなみに私は、モーヴ行政府を代表して歓迎委員長を仰せつかってる」

「ターバーさん、ほんとはね、私も断ったの」とアルカディアは小さく言った。「ただ、心で『こうなれ』って思っただけなのよ。カルガンのカリア様には宇宙電報を送って、マン叔父さんをダゼンダに行かせて、カルガンを挟み撃ちにするよう説得してもらった。でもね . . . 農産物輸送支援のプリーム・パルヴァーさんが突然下痢で倒れちゃって。それで代わりに私が行くことになったの」

 ターバーは深くうなずいた。「アルカディア、君が念力的直感能力に長けているのは、ずっと分かってた。トランも常々そう言ってたよ。にしても、すべてがうまくいった。君の功績は歴史的だ。いま全ファウンデーション放送局で君の名を称えている」

 その時、振動音と共にホバーカーが着陸し、ホマー・マンが姿を現した。

「ターバー、今着いたぞ。アルカディアもいるのか?」マンはあたりを見渡し、やや面食らった表情を浮かべた。「 . . . にしては、ダゼンダおよびカルガン両政府代表、ホマー・マン様を歓迎してくれるには、派手すぎる気がするな?」

 ターバーは冷笑を浮かべて肩をすくめた。「ホマー、お前は何か勘違いしてないか? 誰もお前を歓迎してないよ」

 ホマー・マンは、まるで背筋に冷たいものが走ったかのように立ちすくんだ。

「お前、ポートの入管のゲートをくぐった時、何か衝撃を感じなかったか?」ターバーは声を潜めて言った。「おめでとう、ホマー・マン。無事に“元のお前”に戻ったんだ。トランの“脳波コントロール解除機”のおかげでな」

「そ、そんなに俺のこと、馬鹿にしやがって . . . !」ホマーは顔を真っ赤にしながら叫んだ。「金輪際、誰の言うことも聞くもんか! アルカディア、お前もだ!」

 アルカディアは淡々と受け流し、話題を変えた。「それはそうと、ターバーさん。アンソーアはどうなりましたか?」

 ターバーの表情が曇る。「それが、トランの機械にかけようとしたら、次の日から行方をくらましたんだよ . . . 」

 ファウンデーションの旗が、風にたなびいていた。祝賀の喧噪の中にも、銀河をめぐる戦いと、意思と、そして選択の重みが、まだ確かに残っていた。

次話につづく . . .

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