- 誰から逃げる?
ファウンデーションの夢
第七部 アルカディア・ダレル
第7話 誰から逃げる?
アルカディアは、その場に立ち尽くしていた。
目の前の女—カリアは、静かに微笑んでいた。
「アルカディアちゃん。やっと会えたわね。私はカリアよ。あなたの叔母なの」
その言葉を聞いた瞬間、アルカディアの思考は停止した。
「 . . . 叔母?」
「そうよ。あなたのお母様、ジータの姉。あなたが赤ちゃんだった頃、抱いたことがあるのよ」
アルカディアの心臓が、嫌な鼓動を打つ。
「そんなはずはありません。私はアルカディア・ダレル。ターミナスで生まれました!」
カリアは軽く笑い、彼女の左腕を指差した。
「そのアザ、見覚えは?」
アルカディアは思わず腕を見た。小さな痕——これが何だというのか。
「トランターで生まれた子どもは、皆、種痘を受けるのよ。それがその跡。あなたのお父様にも、きっと同じものがあるわ」
アルカディアは後ずさった。
「そんな . . . ! でも、誰も私にそんなことを教えてくれなかった!」
「それも無理はないわね。お祖父様とお祖母様は、一度トランターを離れた。でも、ベイタお祖母様の意向で戻ったの。何か事情があったのよ」
カリアの視線が、アルカディアを射抜くように鋭くなる。
「私も詳しくは知らないわ。私は若い頃、サンタンニへ渡ったもの。その後、プーチー——いいえ、ステッティン閣下と出会って、彼のそばにいるようになった。でも、そんな話をしている場合じゃないわ」
カリアは突然、アルカディアの手を取り、強く握った。
「あなた、今すぐ逃げなくちゃならない!」
「逃げる . . . ?」
「そう。ステッティン卿ではなく、もっと別のものから。お金も宝石も全部あげるわ。いいから、ターミナスへ逃げなさい!」
アルカディアは震えた。そして、すべてを悟った。
「わかった . . . すべてがわかったわ!」
カルガンに来た理由。父が何も言わなかった理由。
「私、トランターへ行くつもりよ!」
「違うわ!」
カリアの声が鋭く響く。
「ターミナスよ! お父様のもとへ帰るの!」
アルカディアは、じっとカリアを見つめた。
カリアの目は、強い力を持っていた——まるで彼女の思考を操るかのように。しかし、アルカディアはその力を振り払うように、一歩、後ろへ下がった。
「お別れです、カリア叔母様」
カリアの瞳がわずかに揺れる。
「私、あなたから逃げるのよ!」
カリアの目が見開かれた。
アルカディアは踵を返し、暗闇へと駆け出した。
次話につづく . . .
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