エピソード 53 誰から逃げる?

アルカディア・ダレル
  1. 誰から逃げる?

ファウンデーションの夢 

第七部 アルカディア・ダレル
第7話 誰から逃げる?

アルカディアは、その場に立ち尽くしていた。

目の前の女—カリアは、静かに微笑んでいた。

「アルカディアちゃん。やっと会えたわね。私はカリアよ。あなたの叔母なの」

その言葉を聞いた瞬間、アルカディアの思考は停止した。

「 . . . 叔母?」

「そうよ。あなたのお母様、ジータの姉。あなたが赤ちゃんだった頃、抱いたことがあるのよ」

アルカディアの心臓が、嫌な鼓動を打つ。

「そんなはずはありません。私はアルカディア・ダレル。ターミナスで生まれました!」

カリアは軽く笑い、彼女の左腕を指差した。

「そのアザ、見覚えは?」

アルカディアは思わず腕を見た。小さな痕——これが何だというのか。

「トランターで生まれた子どもは、皆、種痘を受けるのよ。それがその跡。あなたのお父様にも、きっと同じものがあるわ」

アルカディアは後ずさった。

「そんな . . . ! でも、誰も私にそんなことを教えてくれなかった!」

「それも無理はないわね。お祖父様とお祖母様は、一度トランターを離れた。でも、ベイタお祖母様の意向で戻ったの。何か事情があったのよ」

カリアの視線が、アルカディアを射抜くように鋭くなる。

「私も詳しくは知らないわ。私は若い頃、サンタンニへ渡ったもの。その後、プーチー——いいえ、ステッティン閣下と出会って、彼のそばにいるようになった。でも、そんな話をしている場合じゃないわ」

カリアは突然、アルカディアの手を取り、強く握った。

「あなた、今すぐ逃げなくちゃならない!」

「逃げる . . . ?」

「そう。ステッティン卿ではなく、もっと別のものから。お金も宝石も全部あげるわ。いいから、ターミナスへ逃げなさい!」

アルカディアは震えた。そして、すべてを悟った。

「わかった . . . すべてがわかったわ!」

カルガンに来た理由。父が何も言わなかった理由。

「私、トランターへ行くつもりよ!」

「違うわ!」

カリアの声が鋭く響く。

「ターミナスよ! お父様のもとへ帰るの!」

アルカディアは、じっとカリアを見つめた。

カリアの目は、強い力を持っていた——まるで彼女の思考を操るかのように。しかし、アルカディアはその力を振り払うように、一歩、後ろへ下がった。

「お別れです、カリア叔母様」

カリアの瞳がわずかに揺れる。

「私、あなたから逃げるのよ!」

カリアの目が見開かれた。

アルカディアは踵を返し、暗闇へと駆け出した。

次話につづく . . .

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