2万年後の銀河シリーズ
第一弾
ファウンデーションの夢
第六部
ベイタ・ダレル
ラヴェンダー畑の囁き
朝日が柔らかくラヴェンダー畑を照らし、甘い香りが漂う中、ロアは作業をしていた。突如、彼女の目に奇妙な男の姿が映った。背中を丸め、地面を探るように動く彼は、この田舎の風景には不釣り合いだった。
「何か探しているんですか?」
ロアは近づいて声をかけた。男は驚いたように顔を上げ、しわの刻まれた額をこすりながら呟いた。
「アルーニンやガールのやつら、俺を煙に巻きやがって . . . 」
それだけ言うと、すぐに自分の独り言を恥じるように首を振った。「すまんすまん、あんたには関係ない話だ。」そう言って男は去っていった。
ロアはその姿を見送りながら、胸に不安を覚えた。彼女には、その言葉がただの戯言ではないように感じられたのだ。そして、その思いはベイタに相談することを決心させた。
ロアの家に戻ると、彼女は娘のベイタを呼び出した。
「ベイタ、今朝ラヴェンダー畑に変な男がいたのよ。何か探しているみたいで、話しかけたら『アルーニンやガールのやつらに煙に巻かれた』とか言ってたの。」
ロアはその場面を思い出しながら語った。ベイタは一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに口元に微笑みを浮かべた。
「お母さん、その人、もしかしたらエブリング・ミス博士かもしれないわ。」
「ミス博士?」ロアは首を傾げた。「聞いたことない名前だけど、有名な人なの?」
ベイタはうなずき、静かに説明を始めた。「ミス博士は隠された秘密を探しているのよ。何世紀も前にハーディンやアルーニンが築いた心理歴史学。その核心が突然消えたの。さらに言うと、第二ファウンデーションの正体も。」
「第二ファウンデーション?ファウンデーションがもう一つあるの?」
「そうよ。」ベイタは目を輝かせた。「ただし、その存在を知っているのは一部の知識人やグループだけ。だけど、その正体については誰も知らない。」
ロアは娘の言葉に困惑しながらも、興味を引かれていた。「博士がそれに気づいたのはどうして?『その時期』が来たってどういうこと?」
ベイタは慎重に言葉を選びながら答えた。「お母さんが心配する必要はないわ。ただ、これ以上は私の仕事だから。」
ロアは娘の目をじっと見つめた。ベイタの中に、彼女が知らない何か大きな使命が隠されているのを感じた。だが、それを問い詰めることはできなかった。
ベイタは母の視線を避け、そっと呟いた。「私の出番も、いよいよね。」その声はロアには届かなかった。
ベイタの胸の中には、新たな冒険への決意が固まっていた。エブリング・ミス博士が現れたことは、運命の歯車が再び動き出した証だった。心理歴史学、そして第二ファウンデーション―その謎が解き明かされる時が近づいているのだと、ベイタは確信していた。
次話につづく . . .
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