6人会議

ボー・アルーリン

六人会議(改訂)

第3話 六人会議

SF小説『ボー・アルーリン』

ファウンデーション暦、50年、銀河最遠縁の惑星ターミナスの首都モーヴ市の辞書広場の隣りの行政府の一室で、六人の男たちが向き合っていた。会議室は決して広くはないが、装飾の少ない機能的な造りをしており、壁には銀河帝国の標章が淡く光る。だが、そこに集まった者たちの表情には緊張が漂い、その標章が示す栄光の時代が、もはや過去のものになりつつあることを暗示していた。

ルイス・ピレンヌが椅子の背もたれに深く寄りかかり、腕を組んだ。「それで、結論としては、要求を受け入れざるを得ないということか」

テーブルの端に座っていたサルヴァー・ハーディンは、静かにそれを聞きながら、ぼんやりと考えていた。なぜ、科学者というものは、こうも管理能力に欠けるのか? 彼らは事実を扱うことには長けているが、人間という不確定要素を相手にすることには慣れていないのかもしれない。

彼の左にはトマース・サットとジョード・ファラ、右にはランディン・クラストとイェイト・フラムが座っていた。ピレンヌが司会を務め、会議の進行を担っていた。

沈黙を破ったのはジョード・ファラだった。これまでの激しい議論にも参加せず、重々しい態度を崩さなかった彼が、ついに口を開いたのだ。その声は、彼の三百ポンドの体重と同じくらいの重みを持って響いた。

「諸君、我々は何か大事なことを忘れてはいないか?」

ピレンヌが眉をひそめる。「何をだ?」

「あと一カ月で設立五十周年を迎える」

ファラはもったいぶるように言い、部屋の空気が一瞬沈黙に包まれた。

「だから?」ピレンヌが苛立ちを隠さずに言った。

「その記念式典で、ハリ・セルダンの霊廟が開く」

その言葉が落ちた瞬間、室内の空気が変わった。六人の間に、目に見えない波が走る。

「それがどうした?」ピレンヌが険しい表情を浮かべる。

ファラは指を丸い鼻に当て、静かに続けた。「霊廟の中に何があるか、考えたことはあるか?」

「知るわけがない。たぶん、ありふれた祝辞が録音されているくらいのものだろう」ピレンヌは興味なさげに肩をすくめた。「新聞が特集号を組もうとしたが、私は止めたよ」

ハーディンはその言葉に、微かに笑みを浮かべた。だが、ファラは意に介さず言葉を続けた。

「それは、あなたの判断ミスかもしれない。霊廟が開かれるのは、極めて”都合の良い時”ではないか?」

ピレンヌが苛立ちを募らせる。「むしろ、都合の悪い時だろう。今は帝国との交渉が最優先だ」

「いや、セルダンのメッセージ以上に重要なことなどない」ファラの声が力を増した。「忘れてはならない。彼は銀河史上最も偉大な心理歴史学者だったのだ。彼が未来の歴史を予測し、その結果を伝えようとした可能性は極めて高い」

部屋には不安と疑念が広がる。ピレンヌが咳払いをし、「心理歴史学は偉大な学問だが . . . その場に専門家はいない。我々がその結論を推測するのは危うい」と慎重に言った。

ファラがハーディンを見た。「あなたはアルーリンで心理歴史学を学んでいたのでは?」

ハーディンは、突然自分に話が向けられたことに軽く驚いたが、すぐに平静を取り戻した。「ええ、だが修了はしませんでした。理論に飽きてしまったんですよ。本当は心理歴史技官になりたかったのですが、私の環境では無理でした。だから、第二志望の政治学へ進んだんです。心理歴史学と政治学は、実質的に同じものですからね」

「では、霊廟の件についてどう思う?」

ハーディンは慎重に答えた。「分かりません」

そう言いながらも、彼の脳裏には新しい思考の道筋が浮かび始めていた。議論の後も、帝国の政策に関する話題が再開される中、彼はほとんど耳を傾けていなかった。

心理歴史学が鍵だ――。

その確信が、ゆっくりと形を成し始めていた。

セルダンほどの偉大な心理歴史学者ならば、人間の感情や行動を解析し、未来の大局を予測することができたはずだ。

ならば、彼は何を見通していたのか? 何を伝えようとしていたのか?

ハーディンは椅子の背にもたれ、思考を巡らせた。

そして、ふと気づいた。

――ふむ . . . もしや?

次話へ続く . . .

付録:
ハーディンの「もしや . . . 」の念の内容は、おそらく以下のいずれか、もしくはそれらの組み合わせでしょう。

セルダンのメッセージは、現在の状況を正確に予測しているのではないか?

霊廟が開かれるタイミングが偶然とは思えない。

もし心理歴史学が正確であるならば、この瞬間に何らかの重要な指針が示されるはず。

帝国の支配は崩壊しつつあり、独立の機会が近づいているのではないか?

帝国の統制力が弱まりつつある中、ターミナスは新たな道を模索すべき時期に来ているのでは。

霊廟のメッセージが、ファウンデーションの自立を後押しする内容になっている可能性。

心理歴史学は単なる学問ではなく、実際の政治戦略に応用できるのではないか?

ハーディン自身、心理歴史学と政治学の関連性を理解していた。

もしセルダンが未来を予測し、それに沿った計画を立てていたならば、政治的決断にも活かせるはず。

この会議の流れそのものが、心理歴史学の予測通りに進んでいるのではないか?

もしセルダンが「このタイミングで人々がこのような議論をする」と計算していたならば、それ自体が計画の一部かもしれない。

つまり、ハーディンは直感的に「セルダンのメッセージが、ターミナスの未来を決定づける鍵となる」ことを悟りつつあったのでしょう。そして、それが帝国との交渉にも影響を及ぼす可能性を感じ取ったのではないかと思います。

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