第73話花束の服をまといしも者
第73話 花束の服をまといし者
SF小説 ボー・アルーリン
夜明け前のトランターは、沈みゆく星々の光に包まれ、廃墟の中に新たな息吹を感じさせる空気が漂っていた。ベリスはまたもや祖母の夢を見ていた。だが今回はただの夢ではなく、過去と未来が交錯するような不可思議な光景だった。
夢の中でベリスは、広大な草原に立つ姉のフテラと母の姿を見た。フテラの手には古びた手紙が握られている。その手紙は弟のボーに宛てられたもので、トランターに住む姉フテラから送られてきたものだという。
手紙には、ウォンダが摘んだ野草の花々をシロツメクサで束ねてある姿が描写されていた。その野草花とは小さな白と紫と黄色だった。鮮やかな花束が目に浮かぶような詳細な文面に、ベリスはその場でウォンダの姿を夢に見た。彼女はその花束を手に、惑星トランターを縦横無尽に歩き回っている。
だがその姿は単なる旅人ではなかった。ウォンダの服装は、フテラがデザインした特注のものだった。野草の花束をモチーフにしたその服は、彼女が探す未知なる仲間への呼びかけそのもののように思えた。服に描かれた自然の象徴は、廃墟となりつつある未来都市トランターの背景に奇妙な調和をもたらしていた。
ウォンダは精神感応能力を持つ者を捜していた。第二ファウンデーションの基盤となる感応者たちを見つけ、組織する使命を帯びている彼女の姿は、廃墟の未来都市に現れた一輪の花そのものだった。
夢の後半、ベリスは急に別の世界へ引き込まれる。そこは故郷星の古い伝説に登場するポーという王国だった。ベリスは、誇り高き王女ウォンダが、父の築いた国をさらに大国へと導く姿を目にした。彼女の犠牲的な行動が国を守り、民衆を団結させる。
その王女の姿は、夢の中でフテラやウォンダのイメージと重なった。彼女が手にする野草の花束と王国の未来を担う使命は、奇妙なほど一致していた。
目が覚めたベリスは、夢の中で見た情景をすべて思い出しながら、これが単なる幻想ではないと確信した。ウォンダの使命、フテラのデザイン、そして自分自身の役割。それらはすべて繋がっている。
「ボー、これをあなたに伝えなければならないわ」とベリスは決意した。ウォンダの行動が、心理歴史学の未来だけでなく、ボー先生自身の運命にも深く関わるものだと感じたからだ。ウォンダの花束の服装に込められた思いが、ボー先生の感応能力をさらに高める象徴であるように、ベリスたちの家族が一丸となることで、新たな道が開かれるだろう。彼女と姉ベリスが遠く今は離れ離れになっているにもかかわらず。
ベリスは頭にそれらを描きながら、夜明けの光に染まるトランターの廃墟を思い浮かべた。それはまるで、絶望の中に光をもたらす花束のような希望の象徴だった。この廃墟になった世界の上でウォンダを見守る蒼き蝶になりたいとベリスは思った。
次話につづく . . .
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