第17話 サンタンニへの旅立ち

ボー・アルーリン

第17話 サンタンニへの旅立ち

― 豪商 ― 飽くなき探求

SF小説 ボー・アルーリン

冷え冷えとしたコンポレロン宇宙空港第3ゲート。その無機質な空間に、ボー・アルーリンの立つ影がひとつ。

ターミナルの天井から吊るされた白光の照明が、彼の影を硬く刻みつけていた。周囲にはほとんど人の姿もなく、ただ静寂だけが空港を満たしている。彼の前には、小柄で顎髭をたくわえた男が立っていた。シンナックス人の豪商―ベントレー・ランビッドだ。

「ボー博士」と彼が口を開いた。「あんたがこの星から銀河の向こう側へ旅立つだろうってことは、ずっと前から察していたよ。」

ベントレーは表情を変えないが、声音にはどこか温かみがあった。

「若い頃にはいろいろあったが . . . 今は君を、勇者として見送ることにしている。ぜひ、探索を成功させて、またコンポレロンに帰ってきてくれ。旅行談を聞くのが楽しみで仕方ない。まあ、どれほどかかるか予測はつかないが、せめて5年以内には帰ってきてくれよ。できれば、例の宇宙交易の続きをしたいんだ。今度は援助もあるしな。いや、君がやりたいことが全部終わってからでもいいさ。いつまでも、待ってる!」

ボーは黙って彼の顔を見つめ、やがて力強く頷いた。

「安心してくれ、ベン。必ず戻る。シンナックス製の新型超光速航宙機と、シンベイリに誓って! . . . それに、君がシンナックス人だったとは知らなかった。けれど、僕の成功は、君も知ることになるはずだ。」

彼は続けた。

「僕がこの銀河の謎に挑む理由 . . . それは、シンベイリ遺跡や、シンナックスのアンドロメダ寺院、そしてトランターに残る寺院に共通する何かがあるからだ。あの、原因不明の頭痛も、それに関係しているかもしれない。」

ベントレーは腕を組み、少しだけ目を細めて言った。

「そうか . . . ダ・ニーは、まだ生きているのか?」

「生きている、というのは少し語弊があるが、トランターのマイコゲン地区に、彼の痕跡があると僕は見ている。」

「 . . . となると、あんたが言っていた“ロボット”、陽電子で動くチクタク人形(ロボット)か? まだ存在しているのか? 一体どれほどの数が? 彼らの目的は . . . ?」

ボーは考え込んだ。

「数も目的も、まだ正確にはわからない。でも、ひとつだけ言える。彼らの存在が、銀河全体に影響を与えているということだ。」

彼は少し笑みを浮かべた。

「だけど、商人は探求者だ。あくなき探求をする。―君たちシンナックスの言葉がそう語っているように、僕もその探求を続ける。」

ベントレーは頷き、薄く笑った。

「その通りだ。商人は常に、新しい可能性を求める生き物。我々シンナックス人も、その精神で生きてきた。正直、君ほど我々の歴史や思想に通じているコンポレロン人は見たことがない。」

しばしの沈黙の後、彼は付け加えた。

「ニフの“粋”の伝統が生まれたのも、商人たちのおかげさ。初期の時代、商人たちが小さな国を開拓した。 . . . それは、君のやっていることにも通じている気がする。」

ボーは驚いたように目を細めたが、すぐにその言葉を深く噛みしめた。

「確かに、商人たちの精神が僕を支えている。君との出会いには、特別な意味があるんだ。まるで、バ・リーや . . . ダ・ニーと出会ったときのようにね。」

ベントレーは微笑んだ。

「それは、こっちのセリフだよ、博士。 . . . ああ、最後に言い忘れていたことがある。」

彼はわざとらしく咳払いをして、指を立てた。

「アンドロメダ寺院の謎を最初に発見したのは、実は俺のいとこなんだ。名前は . . . ガール・ドーニック!」

ボーの目が見開かれた。だが、次の瞬間、彼は力強く微笑み返した。

そして、その瞬間、宇宙港内にアナウンスが響いた。

《第5船台、シンナックス便ご搭乗の方は、ゲートを通過してください。出発まで5分です。》

ボーは、ベントレーに深く一礼し、荷物を持ってゆっくりと歩き出した。

探求の旅が、再び始まる。

― 次話につづく ―

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