第20話 クルーソーとヒューミン
SF小説 ボー・アルーリン
Date: 銀河暦12058年
Place: 惑星サンタンニ
レイチは、惑星サンタンニで続く政治的な駆け引きに心身ともに疲れ果てていた。各政治グループとの対立は彼の精神をすり減らし、安らげる時間はほとんどなかった。そんな中、ボー・アルーリンとの短い会話だけが、彼にとって唯一の癒しとなっていた。
その日もレイチは、夕暮れの柔らかな光が差し込むボーのオフィスを訪れた。
「レイチさん、今日もお疲れさまです」とボーが穏やかに声をかける。
「ありがとう、ボー。君と話す時間がなければ、正直やっていけないよ」とレイチは苦笑しながら椅子に腰掛け、深く息をついた。
しばらく沈黙が流れた後、レイチはぽつりと語り始めた。
「実は、父ハリの意見も聞かず、僕は独断でサンタンニを心理歴史学の実践の場に選んだんだ。父は慎重で、遥かな未来を見据えていた。でも僕は、もっと急進的に、今この惑星で結果を出そうとしている。父の意向とは少し違うやり方だ」
ボーはレイチの目に浮かぶ疲労を見逃さず、静かに言った。
「サンタンニがそんなに重要な役割を担っているとは
. . . 。でも、それは大きな重荷でもありますね」
レイチは頷き、ふとボーの表情に目を留めた。
「ところで、レイチさん。ダール人としての第六感―何かを感じ取る感覚を、最近強く意識したことはありませんか?」
「第六感?」レイチは驚いた。「君も何か感じているのか?」
ボーは少し戸惑いながらも頷いた。
「実は最近、持病の頭痛が再発してきて . . . 。原因は精神的なものではないかと感じています。まるで何かが僕の精神に触れようとしているような、不思議な感覚です」
「それは興味深いな」とレイチは真剣な表情で応じた。「ダール人にも似た症状が現れることがある。だが、君にもその兆候があるとは . . . 。もしかすると、ダール人とコンポレロン人は、同じ起源を持つのかもしれない」
ボーは少し躊躇いながらも話を続けた。
「実は以前、コンポレロンでクルーソーという奇妙な人物に出会ったことがあるんです。彼のことがどうしても頭から離れなくて . . . 。彼の存在が、僕の精神に何か影響を与えている気がするんです」
「クルーソー . . . ?」レイチは眉をひそめた。「聞き覚えはないが、何か特別な印象を受けたのか?」
「はい。彼のことを思い出そうとすると、何かが浮かび上がってくるんです。それが何なのか、まだうまく説明できませんが . . . 」
レイチはしばらく考え込んだ。そして、ふと惑星トランターで出会った、父ハリ・セルダンの友人ヒューミンのことを思い出した。
「それはまるで . . . 銀河の歴史と、太古の故郷星で繰り返された文芸復興の歴史が、不思議なほど一致していることと関係しているのかもしれない」
ボーは驚いた表情を浮かべた。
「まさにその通りです。銀河の歴史では文芸復興が六度繰り返されているのですが、太古の地球でも同じく六度の文芸復興があったようなのです。この一致が、僕の研究に新しい視点を与えています。まだ整理しきれてはいませんが、これは偶然とは思えません」
「それは大きな発見かもしれない」とレイチは興奮を隠せずに言った。「今回のサンタンニでの文芸復興は、繰り返されてきた歴史の最終章、完成形になるかもしれない。だからこそ、僕たちはこの文芸復興を成功させなければならないんだ!」
「レイチさんの決意はよく分かります。でも、その道がどれほど困難かも理解しています」とボーは静かに応じた。「だからこそ、僕たちは共にこの運命に立ち向かわなければなりません」
二人はしばし無言で見つめ合った。その間に生まれた信頼と共感は、これから待ち受ける困難な戦いへの確かな備えとなるだろう。
彼らの絆が、銀河の歴史と地球の歴史を織りなす壮大な運命の中で、どのような役割を果たすのか―それは、まだ誰にも分からない。
次話につづく . . .
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