最後の5人会議

ボー・アルーリン

最後の5人会議(第1回)

第109話 最後の5人会議(第1回)
SF小説 ボー・アルーリン
銀河暦12100年、惑星イオスにて。

ファウンデーション暦で言えば正確な日付は記録されていないが、誰もがこの日が歴史の転換点となることを直感していた。惑星イオスの中央ドームは、人工気候制御によって常春の陽光を保ち、緑の草原と古代地球風の庭園が広がっていた。だが、その美景の中で行われた密会に、安穏とは対極の重さがのしかかっていた。

会議の司宰を任されたのは、ホルク・ミューラー。彼は未だ五十代半ば、最年少ではあったが、その論理的洞察力と記号論理学の業績は他のメンバーからも一目置かれていた。

「僭越ながら、わたしがこのなかで一番の若輩ですので、ルールに従って司宰いたします。」

そう宣言したホルクの言葉に、周囲は軽く頷いた。

この「最後の五人」とは――ボー・アルーリン(75歳)、ガール・ドーニック(59歳)、ホルク・ミューラー(56歳)、ステッティン・パルヴァー(62歳)、そしてウォンダ・パルヴァー(60歳)。それぞれ異なる歴史、異なる文化圏から来たが、今や銀河の命運を握る存在として、ここに集まっていた。

「ボー、わたしはあなたが一番若く見えることに嫉妬すら覚えるわ」とウォンダが皮肉まじりに笑った。

「ありがとう、でも精神年齢は . . . おそらくガールの方が若い」とボーが応じ、室内に一瞬だけ笑いが走った。

だが、議論はすぐに核心へと向かった。

「ウォンダ、そこまで意地を張らないで、二人でターミナスに来てみてはどうだい?」とボーは提案した。「ハリはもういないし、君の妹とマネルラはきっと大喜びするよ。」

「そうなんだよ」とステッティンが続けた。「ボクも同じことをずっと言ってるんだが、ウォンダの方が首を横に振るばかりでね。なにか引っかかっているんだな。むしろベリスがマネルラとトランターに来てくれればいいんだがな、ガール?」

「もちろん、それが最善だとはわかっている」とガールは苦笑した。「でも、ベリスも意地っ張りでね。ウォンダ、君に会いたいとは言うが、“行こう”とは決して言わない。どうもダール人の血が頑固さを生むらしい。」

ウォンダは軽く目を細めて応じた。「皮肉ね。でも、父レイチ譲りの頑固さだとは認めるわ。私とベリスは正反対の性格に見えるけれど、そういう点では似てるみたいね。」

彼女の声は少しだけ熱を帯びていた。

「私は、あなたたち3人と、あとマネルラ、イリーナ、カーリスがターミナスにいる限り、大丈夫だと思ってるの。心配しないで、第2ファウンデーションも、トランターを中心に感応者が少しずつ増えてきているわ。」

彼女は遠く、トランターの空を思い浮かべるように言葉を続けた。

「ただ . . . 最近は、銀河の周縁部の退廃が中心部にまで及んできた。流民の波が、私たちの“星界の涯”にまで迫ってる。帝国の中心――トランターですら、あと一世紀もすれば無人の惑星になるかもしれないの。これは、セルダン危機の第一歩よ。そして . . . 例のオリン・ガリスの暗躍が状況を混乱させているの。ねえホルク、またトランターに来て助けてくれない?」

ホルクはしっかりと頷いた。「ボクの力が役に立つのなら、いつでも行きます。でも . . . 今回はアダム・デフォーに会えると聞いて来たんです。「宇宙潮流とセルダン危機のパラコンシステンシー定数」について、話を伺いたかったんですが。」

ガールが眉をひそめた。「たしかに . . . それがこの銀河でも、唯一腑に落ちない謎だ。」

静寂が広がるなか、ボーがふと別の話題を投げた。

「トランターのことなんだけど . . . 少し気になる情報がある。」

ステッティンがすぐに反応する。「ほう、どんな?」

「トランターの廃墟に、ヘイム人という難民が住み着いて農業を始めたという。彼らはハリ・セルダンの名を頼りに、元の惑星ヘリコンさながらの農村を築いてると。」

ステッティンは深く頷いた。「ああ、確かにそれは事実だ。彼らは何かを信じている。そして、その信仰は . . . 再び銀河を変える力になるかもしれない。」

ボーは低く唸った。「ウ〜ム . . . 」

議論は続いていたが、この会議が“最後”と呼ばれるゆえんは、彼ら5人が顔を揃える最後の時となるからだった。それぞれが異なる未来を背負い、それぞれが最終局面の鍵を握っていた。

次回、彼らがどのような選択をするのか。それは、ファウンデーションの運命をも左右する。

次話につづく . . .

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