時の檻に残された声
第108話時の檻に残された声
第108話 時の檻に残された声
SF小説 ボー・アルーリン
「キミには、もっとも厄介な任務が残されたよ。」
ボーは静かに切り出した。ハリ・セルダンの説得、それが今回の任務だった。
「一度、タルボットさんにセルダン博士のところへ行ってもらったんだが、彼は『そんな必要はない』の一点張りだった。記録の開示など古めかしい考えだとね。しかも未来は将来の後継者に委ねられるべきだ、と主張している。心理歴史学が未来をある程度規定できるとしても、過去の人間が未来の社会を制限することは、心理歴史学の“自由選択未来”の定理に違反するというんだ。」
ボーは肩を落とした。
「ヘリコン・ガイアの知恵に従って、ここ惑星ターミナスに時間霊廟を築いたというのに、中身のないフルーツのように、意味を成さないものになってしまう。」
そして、ガールの方を向いた。
「そこでだ。私よりも、キミの方が適任だと思う。何しろ、ハリは最近“キミに会いたがっている”そうだ。後継者であるキミが側にいないことを、不服に思っているらしい。」
ガールは驚いて声を上げた。
「そんな! 惑星トランターを離れる時、博士は私の手を握って『元気で私の分まで惑星ターミナスで活躍してほしい』とまで言ってくれたのに!」
「それが、老齢というものらしいよ。」
ボーの口調はどこか諦めが混じっていた。
「分かりました。しょうがない、ですね。分からず屋の虎を檻に閉じ込めてきますよ。任せてください。」
そう言って、ガールは苦笑した。
「それにしても、“時間霊廟の中身”ねぇ . . . 」
「真面目な話だよ、ガール。そんなに笑うことではない。」
ボーは、声を引き締めた。
「私からも、ウォンダやステッティンに話しておく。彼らはキミに同伴するはずだ。どうか頼んだよ。」
次話につづく . . .
付録:ガールの任務は成功裏に終わる。その秘訣をボーが尋ねたら、ガールの返事は極簡単。ハリ・セルダンに「虎は自由で孤高な生き物です。たとえ檻に入れられても彼はもっと自由を描くでしょう。そして彼はその描いた絵のようにさらに自由に生きる」と言った。ハリ・セルダンはその意図を瞬時に理解し、「そうだな、明日から早速始めよう」と言った。
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