捻れていても糸は糸

ボー・アルーリン

第84話捻れていても糸は糸

第84話 捻れていても糸は糸
SF小説 ボー・アルーリン

Date:銀河暦12066年
Place:シンパシック・ハーベイ号内
Place:惑星コンポレロン、ニュートーキョー市

「シノーラの備蓄が枯渇しつつあります。」
アーキヴォーの冷静な声が響く中、ダニール・オリヴォーは深く考え込んでいた。シノーラ、ロボットのメンテナンスに欠かせない重要な物質が不足しつつある現状に、彼は対処せざるを得なかった。しかし、問題はそれだけではない。

「惑星シンナックスと人類の故郷を探索する。」
ダニールは決意を固めたものの、彼の陽電子頭脳には微かな嫌な予感があった。まるで、自分が真実から遠ざけられているような感覚。もしかして、アーキヴォーの背後で誰かが情報操作をしているのではないか? その疑念は、ダニールの中でくすぶり続けた。だがそれでも、使命感が彼を突き動かしていた。

シンパシック・ハーベイ号の高度な航行システムを持ってしても、惑星シンナックスへの到達は叶わない。ダニールはまるで「宇宙迷路」に迷い込んだかのようだった。
「これが因果応報なのか . . . 」
つい口をついて出た言葉に、ダニール自身が驚いた。一万年にわたり、人類の歴史を消滅させ、未来を再構築する使命を背負った彼。だが、その代償として、彼自身が「宇宙の調和」に反逆しているのではないかという疑念が胸に重くのしかかる。

「ジャンダーやジスカルドは、メンタル・フリーズ・アウトした。それなのに、なぜ私だけは . . . 」
天を仰ぎ、ダニールは人間のように呟いた。その姿は、一人きりの孤独な探求者そのものだった。

ニュートーキョー市、ボーとイリーナの対話
一方、惑星コンポレロンでは、ボー・アルーリンとイリーナ・シャンデスがアーキヴォーとの対話を進めていた。

「ダニール様の苦悩は測り知れないわね。」イリーナがぽつりと言った。
「アーキヴォー殿、それにしても驚きですよ。ダニールがこれほどまでに惑星シンナックスへの到達を阻まれるとは。」
「首領と言えども、工場生産の航行機には追尾システムと意識言語化変換装置が完備されています。システムの影響下であれば、一般の人権もロボット第零法則グループに適用されます。」

「なるほどね。しかし、それだけでは説明がつかない。まるで宇宙潮流が彼を試しているようだ。」ボーは目を細め、アーキヴォーの言葉を吟味するように応じた。

「それにしても、人間であるホルクが容易に惑星シンナックスに辿り着くのに、ロボットのダニールが迷子になるとは。」
「それこそが真実のメルクマールね。」イリーナがうなずく。
「つまり、宇宙潮流はただの物理現象ではない。そこに何か、もっと大きな意志が働いているのかもしれない。」

「紐理論の難しいところは、途中で糸が捻れていても、結局は端と端が繋がっていることだよ。」
ボーの言葉にイリーナが反応した。
「宇宙の再生は、捻れた糸を解きほぐすことから始めるべきなのね。」
「その通りだ。人類もまた、潮流に導かれることでしか未来を切り開けないのかもしれない。」

ボーは遠くを見つめながら呟いた。その目には、希望と使命が輝いていた。
ダニールも宇宙の迷路の中で同じ思いを共有していた。

次話につづく . . .

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