第74話 再会と再会
SF小説 ボー・アルーリン
第74話 再会と再会
Date: 銀河暦22064年
Place: 惑星トランター、惑星ヘリオス・デルタ
ボー・アルーリンが惑星トランターに到着したのは、彼自身の決意が生み出した新たな展開の始まりだった。同行するイリーナは、銀河の果てに連なる未知の旅を、どこか期待と不安の混ざった表情で受け止めていた。宇宙港に待っていたのは姉フテラとその夫リャン。再会の瞬間、ボーの胸に押し寄せた感情は、日頃の論理的思考では整理できないほど複雑で深いものだった。
しばらくの間、彼らはトランターのエリー地区にあるリャンの家で過ごすことになった。だが、ボーには重要な目的があった。数日後、彼はウォンダ・セルダンとステッティン・パルヴァーに会うために行動を開始した。彼らとの精神感応による意思疎通は、もはや言葉を必要としなかった。ボーは短い精神的な対話で、自分の故郷である惑星サンタンニの現状や、レイチ・セルダンとのつながりを要点を凝縮して伝えた。
「祖父に会うこと、近いうちに実現させましょう。」ウォンダは微笑みながら頷いた。しかし、ボーにはひとつ懸念があった。ウォンダの妹ベリスと母マネルラの存在だ。ボーがそのことに触れようとすると、ウォンダは軽く肩をすくめ、静かに言った。
「大丈夫です。祖父には話しませんし、あなたも黙っていてください。」
この短い再会が終わると、ボーは次なる旅へと心を切り替えた。その頃、銀河系の辺境では、もう一つの物語が静かに進行していた。
惑星ヘリオス・デルタ。銀河中心から遠く離れたこの辺境の地は、まだ文明の波が緩やかにしか及んでいなかった。しかしホルク・ミューラーにとって、その「微弱さ」こそが研究の魅力だった。彼はこの地で資源分布と社会構造の関連性を研究し、新たな「宇宙潮流理論」の構築を目指していた。
そんなある日、トランターから調査団が到着するという知らせが入った。その中には、ストリーリング大学から派遣された若い学生、サハ・ローウィンスがいた。純粋な好奇心を宿した彼女の眼差しは、ホルクの注意を引いた。
「ミューラー先生、なぜ辺境の社会構造は銀河中心と異なるのでしょうか?」
初めて彼女が問いかけたその日、ホルクは静かに研究ノートを差し出した。
「僕の仮説が書かれている。興味があるなら、読んでみるといい。」
彼の言葉に促され、サハはそのノートを手に取った。そこに記された理論は簡潔ながらも奥深い内容で、彼女の中に新たな着想の芽を植え付けた。それは彼女にとってまるで啓示のようだった。
数カ月後、ヘリオス・デルタから戻ったサハは、ホルクの理論を心理歴史学に応用する可能性に気づき始めた。彼女はストリーリング大学でこの理論を研究し、やがて50人会の若手研究者として注目を浴びるようになる。その時期、ボー・アルーリンは彼女のメモを目にし、そこに隠された可能性を見出した。
「君の着想は独創的だ。だが、さらなる磨きが必要だ。」
ボーの指導のもと、サハは研究を続けた。ホルクの宇宙潮流理論を基盤としながら、彼女は心理歴史学の公式にそれを組み込む新たな視点を構築した。その成果は心理歴史学の新しい分野、「微細心理歴史学」の礎となるものだった。
そして、彼女の研究はガール・ドーニックによって再発見され、危機的状況下で応用されることとなる。その裏には、ホルクとサハの努力があったのだ。
ある会議で再会したサハは、ホルクに静かに感謝を述べた。
「ホルク先生、あなたの理論がなければ、ここまで来ることはできませんでした。」
ホルクは穏やかに微笑みながら答えた。
「私の理論はただの道標だ。君自身がそれを進化させたのだよ、サハ。」
こうして、ボー、ホルク、サハが紡いだ物語は、銀河系全体に広がる運命の波紋を生み出していった。
次話につづく
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