児童のための知識の書

ボー・アルーリン

第11話 児童のための知識の書

SF小説 ボー・アルーリン

完全に蘇った(修復された)ドース・ヴェナビリは惑星イオスからかつて彼女の生活の中心地であった惑星シンナ(惑星イオスからほぼ10パーセクの位置)で回復後の休養をとりながら住まいのベランダに向かう廊下に設置してある縦長のミラーに自分の姿を映していた。
おかしくもその容姿は彼女が、彼女自身の葬儀に陰ながら参加したその頃とまったく変化はなかった。
彼女の意識はあいかわらず彼女の夫であったハリ・セルダンに向けられてはいたものの、第零グループのRとしての自負は機能していた。
彼女の意思は、「あるもの」を携えて、惑星コンポレロンに赴くことにあった。


数日前に、突然、惑星シンナの彼女の住まいといつも通う国立図書館との中間の廃墟の建物の地下室のまたその地下に壊れかけの木箱があり、そのなかに十巻の書類が朽ちかけてあるのにはびっくりした。
それはまだかろうじて文字のインクが消えないままであった。
その盗品、盗んだ品物はながい惑星シンナの歴史を通して、もちろん星政府が極秘として秘蔵し、しかも非合法として貸出禁止資料であったのは当然であったものの、あとで調べてわかったことには惑星トランターの帝国図書館の非合法ナンバーのうちの最重要リストに挙げられていたのだった。
その盗品の木箱の所在をドースが探し出して確認したときには、それを盗んで持ち運んだであろう犯人は、ドースがそれを手にしたと同時に、それに見合う多額のクレジットを手にして行方をくらました。(支払ったのは当然ドースであったのだが、)
その盗人(ぬすっと)は、容易周到にも、ドースとの間に何人かの仲介者を通しての犯行であった。
ドースが多額のクレジットを保持しているという情報もある仲介者のなせる技であった。
 ドースの能力にしてみれば、その犯人の手がかりをつかむのは容易であったが、彼女はそんなことより、その書物自体の価値の大きさに圧倒されていた。その犯人云々についてはそれ以上詮索する必要もなかった、といえる。
ドースはその一冊を手にしたときに瞬時に勘ぐったことは、それが、首領ダニールの歴史消滅のウェッブに捉まらなかった隠れた遺産なのであろうか?いいや、このようにダニールが仕組んだせいなのか、ということだった。

惑星コンポレロン 、ニュー・トーキョウ出版、キリスト暦2757年刊
タイトルは『児童のための知識の書』

ドース・ヴェナビリは、その銀河聖語で書かれた全巻を半日かけて何十回もスキャンした。

ドースは、この10巻を今惑星コンポレロンにいる首領に届けなくてならない、と感じた。

次話につづく ...

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