ボーナス・トラック《大団円》
SF小説『ボー・アルーリン』より
惑星イオスの今日は賑やかだった。
霊廟の丘へ向かうエア・ワゴンの操縦士が、いつのまにか代わっていた。中腹に眠るのは、かつて惑星サンタンニの文芸復興を導いたカレブ・ゾロニス。工場施設に隣接するその高地は、今や静かな巡礼地となっている。
エアワゴンが滑らかに着地すると、待ち受けていた人物が4人に近づいてきた。マネルラ・セルダン、サハ・ローウィンス、カーリス・ネルヴス、クライブ・タルボット。そこへ現れたのはアダム・デフォー──いや、かつて「チェッター・ヒューミン」と名乗った男、すなわちダニール・オリヴォーその人だった。
「ようこそ、辺境の星イオスへ。
私はこの星の主宰、アダム・デフォーです。あなた方お一人お一人に、この機会に感謝を申し上げたかったのです」
彼は柔らかな微笑を湛えながら、ゆっくりと語り始めた。
「タルボットさん、あなたの支えたサンタンニは、やがてこの銀河の誉れと呼ばれるでしょう。
サハさん、セルダンの目が届かなかった論文が、ホルクの潮流理論を経てガールの微細心理歴史学へと繋がりました。あなたの研究が、未来への道標を照らしてくれたのです。
カーリスさん、あなたとホルクが諦めかけた文明の灯を再点火し、エッセンシャル・ワーカーたちに誇りを取り戻させました。
マネルラ、あなたはセルダン家に仕え、ボー・グループを支え続けた。辺境に孤児院を築き上げたその事業は、まさにもう一つのファウンデーションです」
4人はそれぞれ、言葉の重みに目頭を熱くした。
やがてダニールは静かに空を見上げた。
彼の目は、銀河のS字に弧を描く星々の中心を見つめていた。
「私の計算が正しければ──いや、正しいはずです。
いずれこの銀河の辺境にて、一人の女性が現れます。
彼女は、かつて信義をもって苦難を越えた者たちの記憶を宿し、
小さき者の叡智と大いなる決断力を併せ持つ。
その名は、静かなる家──Bayta。
彼女は戦火の中にあっても憎しみを拒み、和解と希望を選び取る。
それは心理歴史の流れを歪めるほどの、だが避けがたい必然。
私はそれを、予定調和ではなく、自由意志がもたらす奇跡として記録します」
彼は少し間を置いて、さらに語った。
「そして一世紀後。
その記憶を受け継ぐ者が現れるでしょう。名はアルカディア。
理想郷の名を授かりしその少女こそ、第二の基礎を開く鍵となる。
いずれ三百年後、最果ての地にて火は再び灯る。
名もなき家の名を宿し、真理を選ぶ者が、傷を癒し、連鎖を結び直す。
さらに百年後、彼女の血脈より、新たな語り手が現れる。
理想郷の名をもつ者──人類の未来に選択肢をもたらす灯火です。
彼女たちは、歴史の霧の中にあって、希望の名を刻む」
その時、遠くで鐘が鳴った。会議の終わりを告げる合図だった。
ダニールは4人に向き直ると、微笑んだ。
「さて──会議も終わったようですね。
あなた方9人は、惑星ターミナス、惑星トランターそれぞれへお戻りください。
帰還にはR・プロキュラスが同行します。ご安心を」
エアワゴンが再び浮上する。
その翼の下、かつてカレブ・ゾロニスと呼ばれたRの遺骸が眠る霊廟の丘の影が長く伸びていた。
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