パラコンシステンシー

ボー・アルーリン

第106話パラコンシステンシー

第106話 パラコンシステンシー
SF小説 ボー・アルーリン

ガール・ドーニックは、新型ホノラ号にR・プロキュラスと共に乗り込む準備を進めていた。その前夜、ホルク・ミューラーが彼を訪ね、重要な議論を交わしていた。

「ガイアの理論は本当に破綻なく成立するのか?」ホルクは問いかけた。「すべての知性が一体となる、という考え自体に矛盾はないのか?」

ガールはデータパッドを指で滑らせながら考えた。「ガイアは、異なる知性が矛盾を抱えたままでも共存できる仕組みだ。これは『パラコンシステンシー』という考え方と似ている。」

ホルクは頷く。「パラコンシステンシー、つまり“矛盾を許容する論理”か。通常の論理では、矛盾がひとつでも生じると、そこから何でも導き出せてしまう。たとえば、『私はここにいる』と『私はここにいない』が同時に成り立つなら、その論理体系は破綻する。しかし、パラコンシステント論理なら、矛盾があっても論理全体が崩壊しない。」

ガールは深く考え込んだ。「確かに、ガイアがすべての知性を統合すると言っても、個々の思考には必ずズレが生じる。完全な調和があるわけじゃない。それでも、矛盾を抱えながらひとつのシステムとして機能し続けるなら . . . ガイアの理論はパラコンシステンシーを前提にしているのかもしれない。」

ホルクはデータパッドを閉じた。「だが、ひとつ問題がある。ゲーデルの不完全性定理を考えると、ガイアの知性は限界を持たざるを得ないはずだ。」

ガールは視線を上げる。「不完全性定理 . . . つまり、どんなに完璧な理論でも、自分自身の無矛盾性を証明することはできない、というあの定理のことか。」

「その通り。」ホルクは腕を組んだ。「ガイアがどれだけ進化しても、自らが完全であることを証明することはできない。もしガイアが“私は完璧な知性体だ”と宣言しても、それが本当かどうかを知る方法はないんだ。」

ガールは静かに微笑んだ。「それなら、ガイアの成長は永遠に終わらないということかもしれない。もし完全な知性を持つことができないなら、ガイアは常に変化し続け、矛盾と向き合いながら進化していくしかない。」

そこへ、新たな報告が届いた。惑星フォーミングの過程でガンマ線の異常発生が起きており、状況はすでに不可逆的になっているという。

ホルクは提案した。「メディウス星系のSソラリアに、ガイア創造に似た進化の痕跡があるかもしれない。そこを調査すれば、新たな“知数”―知的進化を示す法則が見つかるかもしれない。」

ガールは深く頷いた。「そうしよう。R・プロキュラスも優秀な操縦士だし、必ず役に立ってくれるはずだ。」

ホルクは満足げに微笑んだ。

次話につづく . . .

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