白瑪瑙の耳飾り
エピソード第184話 白瑪瑙の耳飾り
SF小説 ターミナスへの帰還
エピソード第184話 白瑪瑙の耳飾り
ファー・スター2世号が銀河の果てに向けて再び航行を始めたとき、新たな乗員が加わった。ペイリー・リャン。ダニール・オリヴォーの養女であり、アルカディアの遺志を継ぐ旅に加わるべく、彼の強い推薦によってミーターに託されたのだった。
船内に漂う静謐な光の中、ミーターはペイリーの横顔に目をとめた。彼女の耳たぶに揺れる白い石が、微かに照明を反射している。
「それにしても、ペイリーさんの耳たぶのイヤリングがすごく気になりますね。なんかのおまじないですか?」
ミーターの好奇心に、ペイリーは穏やかに微笑んだ。
「これですか? パパが『お前のいわれを忘れてはならない』って、小さい頃からつけさせてくれたんです。」
「へえ。どういう“いわれ”なのか、聞かせてくれないか。」
「ええ、もちろん。話すことで、思い出もよみがえりますし、いいことが起こるかもしれませんし。」
「やっぱり、おまじないなんだな。アルカディア家の“直感、感応 . . . 再生”と似ているな。」
「それなら知ってます。あれ、実はパパのオリジナリティだったんですよ。」
「えっ、そうだったのか!てっきりアルカディア家の伝統かと . . . 。」
ミーターは軽く目を見張った。
「で、そのイヤリングについて、もっと詳しく聞かせてくれる?」
「白瑪瑙のイヤリングです。ニフの古代、“ナカ”という地方の女性たちが身に着けていたものだそうです。“ナ”が耳たぶ、“カ”が白瑪瑙。心のバランス、人と人との調和、そして潜在能力の可能性思考を象徴しているんです。」
そのとき、壁面に浮かぶホノグラフから、イルミナの声がふわりと響いた。
「“心のバランス”、“人と人の調和”、“潜在可能性”ねぇ . . . それ、私たちのモットーにしたいわ!」
イルミナは軽やかに続けた。
「言い伝えでは、ある男が川で湯浴みしていた女性に恋して白瑪瑙のイヤリングを贈り、やがてその地方の王になったっていう話があるの。その後、そこの女性たちは年頃になると皆耳につけるようになったそうよ。そして、その民族はニフの遥か東の地へと移住していった、とも。」
「伝説では、ジョン・ナックもその出身らしいわ。『移動』を思想にまで高めた人物――それが彼なのよ。パパがそう言ってた。」
ミーターは深く頷いた。
「それは意味深い物語だな。“第零の法則”か……その“移動”の思想は、『児童のための知識の書』の核だ。」
「驚きました。ミーターさん、どうしてそれを知ってるんですか!」
ペイリーの瞳が一瞬大きく見開かれる。
「その本、パパが私に、子供の頃から読み聞かせてくれてたんです!」
彼女はそっとイヤリングに触れた。
「白瑪瑙は、心を愛で満たす意味と効果があるっていわれてます。寂しさ、孤独、悲しみを優しく癒す力も。――この天涯孤独だった私を拾い、育ててくれたのが、パパでした。だから私は、白瑪瑙こそ“第零の法則”のシンボルだと信じてるんです。」
ミーターはしばし沈黙したあと、少し照れたように笑った。
「そういえば、ペイリーさん。君も何か気になることがあるようだな?」
「はい、ミーターさんの胸ポケット . . . 気になります。何が入ってるんですか?」
ミーターは一瞬迷ったが、すぐに答えた。
「この中には、大切なシリンダー・ペンダントが2つ入ってるんだ。透明なものと、紫のもの。いずれ、時が来たらお見せしよう。アルカディアの、大事な遺品だからな。」
「ミーターさんったら . . . ほんとにケチなんですね!」
ペイリーは笑いながら、少しだけ肩を寄せた。船は静かに、しかし確実に、未知の未来へと向かっていた。
次話につづく . . .
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