ヴェローナ郊外の並木道
二万年後の銀河シリーズ
第三弾
ミーターの大冒険
余白
第38話
ハニスは、イオン・ジェット・クラフトを降り、静かな並木道をゆっくりと歩んでいた。ヴェローナの木々は夏の陽射しを浴びて、その緑が鮮やかに映え、風に揺れる葉がかすかなやすらぎを囁いていた。彼の隣には、まるで幻影のように女性の姿がハニスに伴っていた。ヴァレリーというその女性は、物静かな声で話しかけた。
「ジスカルドがロボット第零の法則を決意した背景には、すでにジョン・ナックには相談する相手がいなかったという事実があったのですか?」
ハニスは深く頷き、遠くを見つめながら答えた。「そうだよ、ヴァレリー。ジョン・ナックは、かつての偉大な人々—ファストルフ博士やイライジャ・ベイリー—と同じく、過去の人となってしまった。彼らがいない今、ジスカルドは孤独な決断を迫られたのだ。彼の相棒であるダニール・オリヴォーとともに。」
ヴァレリーは、少し考え込んだ様子で続けた。「でも、ハニス博士、その『ロボット第零の法則』から必然的に導かれる『歴史消滅』という結末と、ダニール・オリヴォーが行った数々の『文芸復興』との間には、相反する矛盾があるように思えます。」
ハニスは、深い溜息をつきながら応えた。「その通りだ。ダニール・オリヴォーが第零法則に基づいて進めた文芸復興は、いずれも悲惨な結末を迎えてきた。彼自身の行為が罪滅ぼしであり、懺悔の一環として行われたものであるならば、その評価を逃れることはできないだろう。おそらく彼の内には、悔恨の念があったに違いない。」
ハニスは、近くの木株に腰を下ろし、しばし沈黙した。彼の顔には、ロボットたちの苦悩と彼らが背負ってきた長い歴史の重みが滲んでいた。
ヴェローナの林は、まるで彼の思索を包み込むように静まり返っていた。遠くから聞こえる小川のせせらぎが、かすかにその沈黙を破るだけだった。
ハニスとヴァレリーの対話は、ロボットたちが背負った宿命と、彼らの中で揺れ動く感情を浮き彫りにしている。このヴェローナの並木道でのやり取りは、まるでロメオとジュリエットがヴェローナの街で繰り広げた両家、モンタギューとキャピュレットの葛藤に共鳴しているかのようだ。どちらの物語も、この宇宙内人間社会、創造物同士の間に生じる避けられない運命の悲劇を描き出しているようである。
はたして、ハニスとヴァレリーが未来に投影する祈りのようなつぶやきは、ロメオとジュリエットが辿ったような悲劇を回避できるのか、それとも同じ結末を迎えるのか——それは、次のエピソードに譲ることにする。
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